連載第5回 これから起きる“内部被ばく”の真実を覆う、放射能の「安心神話」

無視できない“極めて不均一な”内部被ばく~細胞によって被ばく線量は大きく異なる!

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福島第一原発事故による内部被ばくの影響は?shutterstock 

 東京電力福島第一原発事故からもうすぐ5年。政府は2020年東京五輪までに原発避難者をなくすために、強引に避難指示を解除し、賠償や住宅提供の打ち切りを進めています。

 政府の方針は「自立」を前面に押し出し、いまだ汚染の残る故郷への帰還か移住の二者択一を原発避難者に迫っています。

 政府は、外部被ばくも内部被ばくも影響は同等と考えられると取り決め、内部被ばくは問題となる線量にはならないとしています。これは、計算上のトリックを駆使したICRP(国際放射線防護委員会)の「吸収線量と総損傷数は同等で発がんリスクも同じ」という考え方に基づいてます。

 しかし現実は、内部被ばくでは線量分布は極めて不均一であり、細胞によって被ばく線量は大きく異なります。まったく当たっていない細胞が多いのです。

 臓器平均化した等価線量や全身化換算された実効線量では、実は限局して被ばくしている小細胞集団の影響は全く反映していないのです。

 発がんは線量依存性があると考えれば、数少ない細胞でもたくさん被ばくした細胞ががん化してもまったく不思議ではないのです。ですから、甲状腺がんは内部被ばくそのものによるものですが、少ない甲状腺等価線量でも発がんが見られるのです。

 また、熱量換算による被ばく線量で、人体の分子レベルの変化は説明できないし、内部被ばくの線量を外部被ばくと同様に1キログラム当たりのエネルギー値として評価するのは無意味なのです。

細胞周期を考慮すれば内部被ばくは無視できない

 分裂している細胞は、細胞周期のどの時期にあるかによっても影響が大きく異なります。分裂準備期であるG2期と分裂期であるM期は放射線感受性が高いのですが、内部被ばくのような連続的に被ばくを受ける場合には、確実にG2期とM期の細胞にも放射線が当たり強く影響されます。
 
 低い線量だったら人間の身体には免疫力があり、回復力があるので人体に影響はないとする考え方もありますが、内部被ばくでは、連続的に照射されますので、細胞周期の問題を考慮すれば無視できなくなります。

 よほどの大量被ばくでないかぎりは、放射線による細胞死は分裂死であり分裂の過程で死滅します。死滅しないまでも、損傷した遺伝子は継代的に引き継がれ、何代か後に、遺伝子の異常にともなう発がんや先天障害などいろいろなトラブルが起こってくるのです。

西尾正道(にしお・まさみち)

北海道がんセンター名誉院長、北海道医薬専門学校学校長,北海道厚生局臨床研修審査専門員。函館市生まれ。1974年、札幌医科大学卒後、独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター(旧国立札幌病院)で39年間がんの放射線治療に従事。2013年4月より現職。著書に『がん医療と放射線治療』(エムイー振興協会)、『がんの放射線治療』(日本評論社)、『放射線治療医の本音‐がん患者2 万人と向き合って-』(NHK 出版)、『今、本当に受けたいがん治療』(エムイー振興協会)、『放射線健康障害の真実』(旬報社)、『正直ながんのはなし』(旬報社)、『被ばく列島』(小出裕章との共著、角川学芸出版)、『がんは放射線でここまで治る』(市民のためのがん治療の会)、その他、医学領域の専門学術著書・論文多数。

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