医療ドラマ『フラジャイル』を愉しむウラ話〜数年前まで病理診断は“医行為”ではなかった!?

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文科省系と厚労省系の「格差」が…

 医療(臨床)行為は、診断と治療からなる。病理医はとても大切な役目(診断)を担う、紛れもなく“臨床の仲間”だ。ところが、勧善懲悪仕立てである『フラジャイル』内では、臨床医VS病理医の対立構造が描かれる。

 それについて、堤教授はこうコメントする。

 「病理医は他の基礎医学者と異なり、部屋に籠って研究だけをしているわけではないのです。しかし、文部科学省が、病理学教室を基礎医学系の講座に組み込んだ影響もあった。病理学は基礎医学であり、病院では“検査の一種”だとみなされてきた期間があまりにも長かった。今でもまだ、そう思いこんでいる臨床医が多いのはとても残念なことですね」

 最近は“臨床医学の一員”としての病理診断学講座が、各大学に設置されるようになってきた。病理部門自体は、以前から大学病院にもあったが、正規の教授がいる講座は例外的だったという。「講座でないと教授会での発言権がない場合が多い」と堤教授は語る。

 「実は20年、いや30年前をふり返ると、日本病理学会の内部でも、病院で病理診断を担当する病理医(=厚生労働省系)は、大学の基礎系病理学講座で研究と教育を担当する病理学者(=文部科学省系)よりも一段下にみられる傾向がないとは言えませんでした」

 そう聞くと、偏屈な岸京一郎が宿す、ある種の影と病理医自体の歴史が妙にシンクロする。

 「英語の『pathologist』には、病理医と病理学者の二通りの意味があったわけです。誇り高き基礎医学者である病理学者によって、病院で病理診断を担当する病理医が“白眼視された”、そんな時代があったのです。ちょっと悲しい近代史ですね」。『フラジャイル』の主人公・岸京一郎への共感が増す秘話である。
(文=編集部)


堤寛(つつみ・ゆたか)
藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍し、2001年から現職。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏、日本病理医フィルハーモニー(JPP)団長。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書)、『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)など。

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