将来、歯科治療を受けられなくなる地区はどこか?
さらに歯科医師偏在により、深刻な問題が起きる可能性がある地域が出現する。人口が多いが歯科医師数が少ない地区だ。歯科医師は人口が多い地区に集まる傾向がある。人口が多いのに歯科医師数が少ない地区は要注意だ。関東を例にとると、首都圏を含む関東では、人口20万人以上の政令、中核都市、東京特別区が51地区ある。そのうちおよそ半数の25地区が全国平均を下回っている。顕著な地区としては、埼玉県川口市(人口55万8千人)の61.5人、神奈川県相模原市中央区(人口26万人)の53.7人など、OECD諸国の平均より低い。
ここの地区の住民は、通院する歯科医院が多少混んでいる印象があるかもしれないが、歯科医師が不足し、満足に治療を受けられないということはないだろう。しかし、今の状態が続くのは20年後までである。それ以降は政府の歯科医師抑制策が功を奏し、20年後をピークに歯科医師数は減少するからだ。
政府は人口10万人あたり50人を目標に掲げている。達成された場合、現在の歯科医師数より38%少なくなる。現在と今後を比べるには単純ではないだろうが、現在の人口比率で計算すると、川口市は人口あたりの歯科医師数は38.1人、相模原市中央区は33.3人となる。1955年の人口あたりの歯科医師数34.8人と近い値だ。
昔と比べ歯科治療は緻密化、細分化している。精度が高くなった分、1人あたりの歯科治療は長くなっている。1955年当時のような多くの患者を診ることは不可能だ。
歯科医師が政策通り減少すれば、歯科の治療を満足に受けられず、これらの地区から大量の歯科医療難民が発生する可能性がある。もしくは時代に逆行し、雑で荒い歯科治療が横行するだろう。また歯科医師側から受診抑制をかけてくるかもしれない。いずれにしても不利益を被るのは地域住人だ。
現在の日本は、一部の超過密な歯科医師地区によって日本全体の平均をボトムアップしているのに過ぎない。偏在を無くさない限り、歯科医師過剰地区も、不足地区も良い結果は得られない。国民保険で正しい治療を受けるようにするためには、歯科医師の偏在解消が第一だ。
橋村 威慶(はしむら・たかよし)
歯科医師/すなまち北歯科クリニック
(2016年2月3日 MRIC より抜粋、全文は http://medg.jp/mt/?p=6476)