緊急寄稿:日本の医療制度が崩壊しないために今なにが必要か?

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 医療現場の抱えている課題は多いが、その中でも多くの医療従事者が疲弊している医療環境を変えることは急務である。医師・看護師・医学研究者などの多くは、医師免許・看護師免許・博士号などがなくてもできるような仕事に、多大な労力と時間を割くことを強いられている。

 医師不足が叫ばれているが、「ドクターX」のように「医師免許が必要な仕事」に専念できるようになれば、医師と患者の関係は改善されるだろうし、新しいことにチャレンジする時間も生まれてくる。そして、「一億総活躍」を謳うならば、家庭に眠っている多くの女性医師や看護師を、夜間当直が求められない診療や研究を補助する立場で雇用するなど、簡単にできることではないのか?そうすれば社会はもっと活気付くはずだ。

 そして、さらに重要なのは人工知能の活用だ。これには、今の技術でも対応可能なものから、国際的な競争の場となるであろう高度なものまで幅が広い。たとえば、患者の取り違えや、薬剤の取り違いなど、現在のICチップやバーコードを利用した方法で簡単に防ぐことができる。検査に利用した造影剤が間違っていたために、不幸にも患者さんが亡くなった例など、単純なITシステムの構築で回避可能だ。

 病理検査や画像診断など、その気になればすべて自動化することが可能だ。コンピューターの計算速度を競うだけでなく、何に利用するのかもしっかりと考えてほしい。現在、多くの場合、病理医や放射線読影の専門家に頼っているが、典型的なものについては、人工知能による診断で置き換えが可能だ。これによって、専門家は難しい症例にもっと時間をかけることができる。

 専門家でも意見が別れるものについては、さらに情報を蓄積して確実性を高めていけばよい。がん検診センターなどでの単純な見落としなど、少なくない。最近10年間でも、私の知る範囲で、3名の知人が明らかな見落としによって、がんの発見が遅れ、命を落としている。

日本型医療情報データベースで世界に貢献

 これらの画像検査や生化学的検査、そしてゲノム情報などを患者さんの治療経過などとともに集積し、膨大な患者さんの医療情報データベースとして統合すれば、医療行為の結果をより確実に予測することが可能となる。

 特に、保険制度によって比較的均質な医療が提供され、診断機器などが充実している日本では、世界に冠たる医療情報データベースの構築ができると期待される。これらによって膨大な新規の産業が生み出され、経済活性化につなげる事ができる。もちろん、これらの医療体系そのものを輸出し、医療分野で世界に貢献することが可能となるのである。私の夢である、「医療分野で『日の丸』を掲げる」ためにも、医療全体にメスをいれ、高齢化社会を生き延びるための模範を示して欲しいと願っている。

中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)

シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センター副センター長。1977年、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、84〜89年、ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。89〜94年、(財)癌研究会癌研究所生化学部長。94年、東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。95〜2011年、同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005〜2010年、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年、内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長を経て、2012年4月より現職。

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