「たかが貧血……」と侮るなかれ~将来の認知障害のリスクが倍になる!?

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「ヘモグロビン不足」を放置してはいけない wavebreakmedia/PIXTA(ピクスタ

 何となく疲れやすい、だるい、眠い、階段を昇ると動悸や息切れがする、頭が痛い……。これらの症状の原因として疑われるもののひとつに「貧血」がある。

 出血などがなければ、貧血は急激に起こることはない。徐々に進行していくため、体質とあきらめてしまい、不調を抱えながら生活している人は少なくない。

 だが、なかには感染症やがん、肝臓病など深刻な病気の二次症状として貧血が起きることもあるので、決して侮ってはいけない。さらに最新の研究では、貧血症の人は将来、認知症になる危険性が高いことも明らかになった。貧血の怖さが、にわかにクローズアップされているのだ。

貧血の人は認知テストの成績が良くない?

 2015年12月、アルツハイマー病に関する国際学術誌『Journal of Alzheimer’s Disease』に掲載されたドイツの研究によると、貧血症の人は「言語記憶能力」と「実行機能」が低いだけでなく、軽度認知障害(MCI)になるリスクも高いという結果が出たという。

 軽度認知障害(MCI)とは、健常者と認知症の中間にあたる症状だ。記憶、決定、理由付け、実行などの認知機能のなかの1つに問題が生じているが、日常生活には支障がない状態を指す。

 ところが放置したままだと認知機能の低下が続き、5年間で半数が認知症へと進行するといわれる。日本では、認知症とその予備軍であるMCI人口は合計で800 万人以上に達す(厚生労働省2013年発表の調査)。65歳以上の4人に1人になる計算だ。

 今回の研究は、ドイツに在住する男女 4814人(男女比5:5)を対象に実施。2000~2003年にかけて、認知機能と貧血の有無を検査。5年後に再検査(参加率92%)を行った。

 被験者のうち貧血症(ヘモグロビン値が男性で13g/dL未満・女性で12g/dL未満)だった163名と、貧血症ではない3870人を比較。すると、貧血症グループの方が心血管疾患のリスク要因が高く、さまざまな認知機能テストの成績が悪かった。

 年齢を考慮して調整しても、貧血症グループは「即時リコールタスク」(今覚えたことを思い出す能力)と「言語的流暢さ」において、有意に劣っていたという。

 さらにMCIと診断された579人と、認知機能が正常な 1438人を比較すると、前者の貧血症の率が高くなっていた。これを試算すると、貧血症がある場合、MCIになるリスクが2倍近くに増えることが判明。酸素を体中の器官へ運ぶヘモグロビン不足が、将来に認知症を引き起こす可能性を高めているのだ。

日本女性の半数が潜在的に鉄欠乏

 類似の研究は、過去に米国でも行われている。米国神経学会(ANN)が2013年7月31日、学会誌『Neurology』で論文を発表している。

 高齢者2552人(70~79歳)に対して貧血検査と記憶力、思考力のテストを11年間にわたって実施。開始時に貧血だった人は、そうでない人より認知症の発症リスクが約41%高かったという。

 この研究を行った米カリフォルニア大学のKristine Yaffe氏は、「貧血と認知症が関連する理由は、貧血が全般的な健康不良を示すマーカである可能性や、貧血に伴って脳に運ばれる酸素量が低下して神経損傷が起こり、記憶力や思考力が低下することが考えられる」と述べている。

 米国では65歳以上の9.2~23.9%が貧血といわれており、日本でも10人に1人の高齢者が貧血に悩まされているという。女性に限れば、30代の18.5%、40代の25%が貧血というデータがある(平成16年厚生労働省国民栄養調査)。

 さらに通常の血液検査ではわからない、身体に貯蔵される鉄の不足による「かくれ貧血」も含めると、女性の約半数が潜在性鉄欠乏の状態だという説もある。

 これからは、貧血を認知症の危険因子と明確に捉え、メカニズムを解明するなどのさらなる研究が必要だ。もし、あなたが献血ルームで「ヘモグロビン不足で血をとれません」と言われたら、絶対に放置してはいけない。たかが貧血」と軽く流さずに検査・治療に取り組むことは、認知症の有力な予防策につながるといえる。
(文=編集部)

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