シリーズ「血液型による性格診断を信じるバカ」第1回

日本の常識は世界の非常識!? 血液型と性格の関係を未だに信じるバカがいる!

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血液型が重要になるのは輸血と犯罪捜査くらいshutterstock.com

 「幽霊の正体見たり、枯れ尾花」という。2014年4月、「STAP細胞はありまーす」と小保方晴子氏は宣言したが、STAP幹細胞とされたものは、遺伝子解析の結果、マウス胚由来のES細胞であり、しかも特徴的な染色体異常があることから、「若山研」から盗まれた細胞株だと確定した。小保方氏は理研をクビになり、舞台となったCDBは組織が解体された。

 だが2015年12月、ネットの世界では、ネイチャー社が出す「サイエンティフィック・リポーツ」という電子ジャーナルに掲載された論文がSTAP細胞の存在を確認した、というデマが拡散した。テキサス大の研究者が筋肉由来の幹細胞について同誌に論文発表したのは事実である。しかし、筋肉のどの細胞に由来するかは明らかにされていないし、キメラマウスの作成にも成功していない。同論文については、科学ジャーナリスト粥川準二氏のネット解説記事が問題点を明らかにしている。

 理研STAP論文のミソは、分化しきった体細胞として脾臓のT細胞を用いたところにある。膜表面にあるT細胞レセプター(TCR)は、それを作る遺伝子が「再構成(RA)」という複雑なDNAの組み替えや突然変異を繰り返してできるため、細胞毎に異なるという特性をもつ。「免疫遺伝子RA」は利根川進氏が仕組みを解明してノーベル賞をもらった。分化しきったT細胞が酸性浴で初期化して胚細胞になったとしても、免疫遺伝子だけは元に戻らず電気泳動で調べるとRAのバンドがそのまま残る。これがあればすなわち「分化した体細胞から胚細胞ができた」ことの決定的証拠となる。ところがこの写真が捏造だったのだ。

 一部にある小保方人気がいつまでも消えないのは『脳の中の幽霊』(V.S.ラマチャンドラン、角川書店, 1999)のせいだ。「鰯の頭も信心から」という。人は「あってほしい」ものを信じやすい。信じればあるように感じられる。UFO、万能薬、霊魂、幽霊、妖怪、天国に地獄となんでもある。

医療職がこんなことを信じているのか?

 20万人を超える医療従事者に利用されているとする医療ニュース「ケアネット」の「2015年医療ニュースランキング」の第1位、かつ「2015年医療ニュース『いいね!ランキング』の第2位は、6月に掲載された「本当だった!? 血液型による性格の違い」だそうだ。「いいね!」が417個(12月17日現在)もついている。

 血液型と言ってもABO式だけだ。いまだに「血液型と性格」が相関するという説を信じている人が多いのがわかる。筆者は1970年代の後半2年間、米首都ワシントン郊外にあるNIHに留学し、その後はある国際プロジェクトに関係したのでボストン、ミネソタ州・ミネソタ市、カリフォルニア・パロアルト市にある四つの大学とイタリア・ミラノの国立がん研究所に月単位で滞在し、英国オックスフォード大、西ドイツ・ベルリン大にも週単位で滞在した。アフリカにもエイズ調査に出かけ、ケニア、タンザニア、ガーナ、コートジボワールの四ヶ国に滞在した。

 この間、一度も「貴方の血液型は何ですか?」という質問を受けたことがない。国際学会のパーティで血液型が話題に上ることもない。滞米30年、米国人と結婚して子供もいる娘も日本人以外と血液型が話題になった経験はないという。

 つまり「血液型と性格」の話は、日本と日本人だけに見られる現象なのである。しいて言えばかつて植民地であり、日本文化の影響が強い台湾と韓国の老人に少し血液型信仰が残っている。そこで5回にわけてこの説に科学的根拠がないこと、説の起源と拡散の過程、それを広めた罪深い人々などについて解説する予定である。

「血液型と性格」の話は日本と日本人だけに見られる現象

難波紘二(なんば・こうじ)

広島大学名誉教授。1941年、広島市生まれ。広島大学医学部大学院博士課程修了。呉共済病院で臨床病理科初代科長として勤務。NIH国際奨学生に選ばれ、米国NIHCancerCenterの病理部に2年間留学し血液病理学を研鑽。広島大学総合科学部教授となり、倫理学、生命倫理学へも研究の幅を広げ、現在、広島大学名誉教授。自宅に「鹿鳴荘病理研究所」を設立。2006年に起こった病気腎移植問題では、容認派として発言し注目される。著書に『歴史のなかの性―性倫理の歴史(改訂版)』(渓水社、1994)、『生と死のおきて 生命倫理の基本問題を考える』(渓水社、2001)、『覚悟としての死生学』(文春新書、2004)、『誰がアレクサンドロスを殺したのか?』(岩波書店、2007)などがある。広島大学総合科学部101冊の本プロジェクト編『大学新入生に薦める101冊の本』(岩波書店、2005)では、編集代表を務めた。

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