しかも、さらに憂慮すべき深刻な問題がある。分科会の時代錯誤と不透明性という弊害だ。
遺伝子工学や分子生物学などの生命科学は、今や医学の横断的な知見であり、医学教育に欠かせないインフラになっている。生命科学に根ざす医学の探究や産学連携は、分科会が果たすべき重要な役割であり、ミッションに違いない。
だが、生命科学の急激な進歩によって、研究分野が細分化され、臨床領域が多様化したために、分科会の守備範囲が広がり、多種多様な“専門店”に枝分かれした。その結果、分科会は、多領域の研究者が集まる玉石混交の研究機関に変質した。専門性の境界が曖昧になり、分科会が果たすべき機能も、特化すべき役割も不透明になってきた。何のための分科会なのか? 会員の意識のズレやバイアスも顕在化してきたのだ。あたかも羊頭狗肉の様相に近い状況ではないのだろうか?
このような分科会の巨大化・複雑化は、非効率な運営を招き、組織の有用性、存在価値、社会的貢献度を問い質し、マンモス学会は不要という論調にもつながっている。
垂直・タテ割り的な診療から水平・横断的な医療イノベーションに追いつけない時代遅れの“巨大デパート”、日本医学会。分科会の乱立は、大学病院の医師の負担を増やすものの、医療技術や知見を向上させたり、臨床治療を進歩させたりしないのは明らかだ。ムダな分科会は、減らさなければならない。
解決策はないのか? 分科会の共同開催、分科会の統廃合や窓口の一本化によるダウンサイジングも模索されるが、現実的には困難だろう。時間・空間を共有するITの活用は、どうだろうか? iPadでスライドショーを見たり、オンデマンドでアクセスしたり、youtubeで閲覧したりできれば、会場に行く必要はない。システムを改善すれば、質問したり、会員がコミュニケーションを深めたりできるかも知れない。
日本医学会の知名度、スケールメリット、国への提言力などの利点を活かしつつ、足下の問題を解決していく他ない。それが、医師の負担を減らし、患者の利益を守り、医療イノベーションを実現できる唯一の活路かも知れない。
(文=編集部)