一方で慢性腰痛というのは、器質的な問題というよりも、そのほかの複雑な問題が絡み合ってしまっている場合が多い。だからこそ治りにくく慢性化してしまっているのだ。
その複雑な問題というのは多岐にわたる。具体的には「腰痛に対する間違った考え方、思い込み」「動くこと、痛みへの恐怖」「非効率な動きの獲得」「筋力低下」「日常生活」「間違った寝具選び」「投薬依存」「睡眠不足」などが挙げられる。
ここで気づいた方がいるかもしれない。そのほとんどが医学的、解剖学的な問題ではなく、心理的なものや日常生活における話なのである。
きっかけは医学的な問題であったかもしれない。だが、そこで適切な治療をせずに、動くことへの恐怖、何週間もの過度な休息、痛みへの間違った理解、などを自分の判断(時には第三者)で処置を行ってしまい、慢性腰痛に進んでしまう。
慢性腰痛になってしまった場合、それを治すためには、ただ通院して医学的な問題にアプローチするだけでは不十分だ。そのような心理面や日常生活のアドバイス、日常生活の見直し、など医学面以外のアプローチも必要になってくる。そこには、理学療法士はもちろんのこと、臨床心理士など他のエキスパートと協力することも大切だ。複雑に絡み合った紐を、一つ一つ解きほどいていく作業となる。
しかしながら、日本は未だに急性腰痛も慢性腰痛も同じように「腰痛」として扱い、同じように治療や処置をしている場合が多くある。それでは、慢性化している非特異性腰痛は一向に治らない。
慢性腰痛とは、急性腰痛が何らかの原因で慢性化してしまったもので、その原因は身体だけの問題ではなく多岐にわたる。それを完治させるには、視点を変える、広げることが必要だということを覚えていただきたい。
三木貴弘(みき・たかひろ)
理学療法士。日本で理学療法士として勤務した後、豪・Curtin大学に留学。オーストラリアで最新の理学療法を学ぶ。2014年に帰国。現在はクリニック(東京都)に理学療法士として勤務。一般の人に対して、正しい医療知識をわかりやすく伝えるために執筆活動にも力を入れている。