国民病といわれる腰痛とうつに関連が...... Choreograph/PIXTA(ピクスタ)
日本人の国民病といわれる「腰痛」。「平成22年国民生活基礎調査」の「自覚症状のある病気やケガ」では、腰痛は男性で1位、女性では肩凝りに次いで2位。日本人の成人の9割が、一生に一度は腰痛を経験しているといわれているほどだ。
ところが、腰痛の原因は、腰椎や筋肉の傷害によるものから、ストレスや他の病気によるものまでさまざまだ。先日、腰痛治療のひとつヒントになる報告がなされた。「慢性腰痛の患者にうつ病や不安症がある場合、麻薬性鎮痛薬の効果が十分に得られない可能性がある」ことが、新たな研究で明らかにされた。
研究を率いた米ピッツバーグ大学教授のAjay Wasan氏は、「腰痛が、うつ病や不安症を悪化させることもあればその逆もあり、両者には相互的関係がある」と説明する。
また、うつ病や不安症のある人は、麻薬性鎮痛薬による効果が大幅に低下するほか、薬剤乱用の確率が高いという。たとえば、薬剤の過剰摂取や、複数の医師から同じ薬剤の処方を受けるドクターショッピング、麻薬性鎮痛薬とマリファナやコカインの併用などがみられる。
あの世界的企業の役員も麻薬性鎮痛薬で......
「医師は麻薬性鎮痛薬を処方する前に、うつ病や不安症の評価と治療を行い、非麻薬性鎮痛薬や理学療法などの代替治療も検討する必要がある」と、Wasan氏は指摘している。
『Anesthesiology』(7月9日掲載)で報告された今回の研究では、軽度から重度のうつ病または不安症のある慢性腰痛患者55人を対象に、モルヒネ、オキシコドン、プラセボのいずれかを6カ月間投与するグループに無作為に振り分けた。
患者は、疼痛のレベルと毎日の薬剤量を研究グループに報告。その結果、うつ病および不安症が軽症のグループでは、39%の疼痛改善が認められた。一方、重症群は約21%だった。さらに重症のグループでは、軽症グループと比較して鎮痛薬の乱用が大幅に増加し(39%対8%)、副作用も多くみられた。米国家庭医学会(AAFP)によると、この薬剤クラスによくみられる副作用には便秘、倦怠感、混乱などがあるという。
このような研究報告で頭をよぎったのが、先月麻薬取締法違反(輸入)で逮捕されたトヨタ自動車の常務役員のジュリー・ハンプ氏。ハンプ氏は、疼痛を和らげる目的だったと弁明したが、鎮痛薬の乱用は心理的なプレッシャーだったのではと考えてしまう。