「さぁ、ヤケのヤンパチ、日焼けのナスビ、色が黒くて食いつきたいが、わたしゃ入れ歯で歯がたたない!」
ご存知、映画『男はつらいよ 寅次郎物語』でフーテンの寅さんが放つ威勢のいいテキ屋の口上。入れ歯で歯がたたないのは、当たり前。だが、歯がゆい、歯ぎしりする、歯に衣着せないなどと、日本人は、歯を茶化しつつ、音感的・触感的な物言いを愉しんでいるフシがある。
瞳が澄んで歯が白い美人を明眸皓歯(めいぼうこうし)と持ち上げる。白い歯と笑顔で心を許すと見せかけて、目には目を!歯には歯を!と一転逆襲パンチを食らわせる。寅さん、美人は油断ならないね!ホント……。
さて、閑話休題。今回は、歯の再生医療をできるだけ歯切れよく話そう。
歯の再生医療は、どこまで進んでいるのか?
ES細胞やiPS細胞は、受精卵や皮膚などの細胞を人工的に培養し、どのような組織や臓器にも成長できる多能性幹細胞だ。多能性とは、無限に増殖できる能力(無限増殖能)と多種類の細胞に分化できる(多分化能)を合わせ持った細胞の働きを言う。
幹細胞には、多能性幹細胞のほかに、組織幹細胞(成体幹細胞または体性幹細胞とも呼ぶ)がある。
多能性幹細胞は、人工的に作られる細胞なので、自然界に存在しない。一方、組織幹細胞は、ヒトの体の中に存在し、組織や臓器の機能や体のホメオスタシス(恒常性)を維持する重要な幹細胞だ。最近の研究が急速に進み、免疫拒絶反応やがん化のリスクが低い組織幹細胞は、再生医療の切り札として、大いに期待が高まっている。
組織幹細胞は、白血球、赤血球、血小板などの血液細胞に分化する造血幹細胞、骨、脂肪、軟骨、心筋、神経などの細胞に分化する骨髄幹細胞、お腹の脂肪などから得られる脂肪幹細胞、歯の幹細胞の4種類がある。
歯の再生医療に使われる歯の幹細胞は、歯髄幹細胞(歯の神経である歯髄から得られる幹細胞)、歯根膜幹細胞(歯根の周りに付いている歯根膜から得られる幹細胞)、歯小嚢幹細胞(歯根の周りに付いている軟組織から得られる幹細胞)、歯乳頭幹細胞(形成途上の歯根先端にある歯髄から得られる幹細胞)、乳歯幹細胞(幼児の脱落した乳歯の歯髄から得られる幹細胞)がある。少々、言葉が紛らわしいが、続けよう。