連載「眼病平癒のエビデン」ス第7回

池袋で死傷者5人を出した加害者の"てんかん医師"は、なぜ薬を服用していなかったのか?

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無記名のアンケートでは4割の患者が「ときどき服用しないことがある」と答えた(shutterstock.com)

 今年8月、東京都豊島区のJR池袋駅近くで、歩道に乗用車が乗り上げ、歩行者5人が死傷するという事故が起きました。そして、自動車運転処罰法違反容疑で逮捕された容疑者は、癲癇(てんかん)などの病気があったと報じられました。その中で、以下のような報道を耳にしました。

①加害者の担当医は、病気を本人に伝えており、癲癇は投薬でコントロールされていたはずだ。
②加害者は、癲癇の病状が落ち着いていたので薬を服用しないことがあった。

 ①と②の間にあるものは何か? 医師は、薬を処方すれば、患者がきちんと服用していると信じています。しかし患者は、最近は調子が良い、忙しい、旅行に行っていたなどの理由で、実際には服用をしないことがあります。また、1日3回服用するように指示されていても、その回数を守らないこともあるでしょう。

 ある調査によると、患者に薬の服用について尋ねると、医者の前では9割の患者が「欠かさず服用している」と答え、無記名のアンケートでは4割の患者が「ときどき服用しないことがある」と答えたという報告があります。

 きちんと薬を服用しないと、病気の回復が遅れる。それを知らない担当医は、薬の量を増やす。薬の量が増えると、さらに服用しないことが増える――。このような悪循環を生じさせてしまいます。

薬物治療は「コンプライアンス」から「アドヒアランス」へ

 医療の現場では、薬物治療において「コンプライアンス(compliance)」と「アドヒアランス(adherence)」という概念があります。

 簡潔に述べれば、コンプライアンスは処方された薬を患者が指示通り服用すること。つまり「服薬遵守」を意味し、患者側か見れば受動的であり、薬を服用しないのは患者に非があると判断されます。

 どうすれば薬の服用が守られるのか? そのため最近では、患者が病気を理解し、治療に積極的に参加するアドヒアランスという概念が生まれてきました。服用の妨げになる要因を、医療者側、患者側、双方で検討し、自主的に薬を服用できるようにしていくという考え方です。

 アドヒアランスを良くするために、さまざまな工夫がなされています。

 点眼薬で説明すると、点眼の容器の形状を扱いやすく改良したり、点眼が難しい人にはサポートする器具も考えられています。また、効果の違う2つの薬剤を1つにした配合剤も増えてきており、点眼治療のアドヒアランスの向上に役立っています。

 このように製薬会社も医療者側も「アドヒアランス」を向上させるべくさまざまな取り組みを行っておりますが、それでも、最後は患者本人が服用したり点眼したりしなければ意味を持ちません。きちんと服用しているのか、どんな時に服用を守れないのか、正確に医師に伝えることが求められます。

 特に治療が長期に及ぶ慢性疾患では、患者本人のみならず、家族や介護者、ヘルパーなどのキーパーソンも病気を理解し、治療に積極的に参加することが重要となるのです。

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高橋現一郎(たかはし・げんいちろう)

東京慈恵会医科大学眼科学講座准教授。1986年、東京慈恵会医科大学卒業。98年、東京慈恵会医科大学眼科学教室講師、2002年、Discoveries in sight laboratory, Devers eye institute(米国)留学、2006年、東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科診療部長、東京慈恵会医科大学眼科学講座准教授、2012年より東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科診療部長。日本眼科学会専門医・指導医、東京緑内障セミナー幹事、国際視野学会会員。厚労省「重篤副作用疾患別対応マニュアル作成委員会」委員、日本眼科手術学会理事、日本緑内障学会評議員、日本神経眼科学会評議員などを歴任。

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