連載 病理医があかす、知っておきたい「医療のウラ側」 第3回

痔は人間にしか見られない病気! "直立二足歩行"が背負った「肛門の宿命」

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なぜ人間だけが痔核に苦しむのか? shutterstock.com

 痔核は人間特有の疾病だ。静脈弁を持たない直腸静脈叢が慢性的にうっ血した結果、静脈瘤(痔)が生じる。

 では、なぜ、直腸静脈叢には静脈弁がないのだろうか? 哺乳動物が"四足歩行"をするときの心臓と肛門の位置関係を考えれば、それはわかる。

ヒトがお尻を拭くことになったのは......

 四足歩行では、肛門は心臓より高い位置にあるため、静脈血は自然流下により心臓へと戻る。つまり、逆流防止のための静脈弁はいらないのである。事実、静脈弁を有する静脈は、四肢の静脈と肋間静脈・腰静脈のみ。"直立二足歩行"を始めたことで人間は、直腸静脈叢がうっ血する運命にさらされたまま、十分な「進化」を遂げられずにいるのだ。

 直立二足歩行を始めた人間は、大殿筋とともに骨盤底筋群が著しく発達した。肛門括約筋を含む小骨盤腔内の筋肉を発達させることで、腹腔内にある臓器をしっかりと支えているのだ。そのために、四つ足動物と異なる特殊事情が発生した。

 平田純一氏は著書『トイレットのなぜ? 日本の常識は世界の非常識』(講談社)で、次のように明快に説明する――。

 四つ足歩行の動物では、肛門を締めるための骨盤底筋はゆるくてよかった。排便時には直腸をお尻から突き出す、つまり、肛門をめくることができる。そのため、排便完了後に直腸が元に戻って、肛門に便が付着することはない。

 大殿筋や肛門括約筋を発達させざるを得なかった人間では、肛門は形よく突き出たお尻の奥に収まっており、直腸を外部に突き出すことができない(直腸脱は、括約筋のゆるむ高齢女性の病気だ)。そのため、排泄のたびに肛門に汚物が付着し、何らかの方法で拭きとらざるを得なくなったのである。

肛門を拭くのに「紙」を使うのは人類の約3分の1

堤寛(つつみ・ゆたか)

2017年4月より、はるひ呼吸器病院(愛知県)病理診断科の病理部長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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