痔核は人間特有の疾病だ。静脈弁を持たない直腸静脈叢が慢性的にうっ血した結果、静脈瘤(痔)が生じる。
では、なぜ、直腸静脈叢には静脈弁がないのだろうか? 哺乳動物が"四足歩行"をするときの心臓と肛門の位置関係を考えれば、それはわかる。
ヒトがお尻を拭くことになったのは......
四足歩行では、肛門は心臓より高い位置にあるため、静脈血は自然流下により心臓へと戻る。つまり、逆流防止のための静脈弁はいらないのである。事実、静脈弁を有する静脈は、四肢の静脈と肋間静脈・腰静脈のみ。"直立二足歩行"を始めたことで人間は、直腸静脈叢がうっ血する運命にさらされたまま、十分な「進化」を遂げられずにいるのだ。
直立二足歩行を始めた人間は、大殿筋とともに骨盤底筋群が著しく発達した。肛門括約筋を含む小骨盤腔内の筋肉を発達させることで、腹腔内にある臓器をしっかりと支えているのだ。そのために、四つ足動物と異なる特殊事情が発生した。
平田純一氏は著書『トイレットのなぜ? 日本の常識は世界の非常識』(講談社)で、次のように明快に説明する――。
四つ足歩行の動物では、肛門を締めるための骨盤底筋はゆるくてよかった。排便時には直腸をお尻から突き出す、つまり、肛門をめくることができる。そのため、排便完了後に直腸が元に戻って、肛門に便が付着することはない。
大殿筋や肛門括約筋を発達させざるを得なかった人間では、肛門は形よく突き出たお尻の奥に収まっており、直腸を外部に突き出すことができない(直腸脱は、括約筋のゆるむ高齢女性の病気だ)。そのため、排泄のたびに肛門に汚物が付着し、何らかの方法で拭きとらざるを得なくなったのである。