ロマンチックなキスも生物学的にはクールな選別方法?
最近、若者の間で恋人とのキスを写真や動画で公開するのが流行っているらしい。ところがキスという行為には、ロマンチックな思いからはほど遠い、打算的な理由がある。
キス10秒で8000万個のバクテリアを交換する!?
キスを求めたくなる理由の有力な説は、「自分の子孫を残すのに適切な相手かどうかを見極めるため」というもの。キスをする目的は、相手の情報を収集だ。
口内に存在するバクテリア(細菌)を交換し、相手が自分の持っていない免疫のバリアを持っているか、また健康状態や生理学的相性が合うかどうかがわかるという。
免疫学的には「同じ免疫のバリア」を持っている者より、自分にないバリアを持つ個体と生殖する方が、子孫が生き残っていく可能性は何倍も高い。結果的に、自分のDNAを後世に残せることになる。
つまりキスによって、異なる免疫の個体を発見するための"値踏み"をしているのだ。では、どんなキスでそれを判断しているのだろう。
スロバキアのNatália Kamodyová博士の実験によれば、約10秒間のディープキスは約8000万個のバクテリアを交換するという。これによって相手が「生物学的」に適切かどうかを本能的に判断する「下調べ」が可能となる。
テストステロンは最強の媚薬!?
また、男性が女性よりも"熱烈なキス"をしたがるとしたら、それには理由がある。男性は、濃厚な口づけをすると「男性ホルモン(テストステロン)」をより多く分泌する。テストステロンを多く渡すことで、相手が発情する効果を狙っているという。
テストステロンには、「攻撃的になる」「キレやすくなる」という欠点がある一方で、性欲を高める効果がある。テストステロンは、気分を一気に盛り上がっていく可能性を大いに秘めているのだ。
実は女性も、生理の一週間前くらいからテストステロンが分泌される。その作用によって生理前に「イライラ」しやすくなることが判明している。一方で性欲は亢進するので、「一夜の過ち」を犯してしまいやすい時期でもあるのだ。
美男美女、実はもっとも「普通の顔」
話を戻そう。生物学的に適切な相手かという下調べには、「見た目」にも表れる。外見で好ましく感じるのは、自分の生理学的な難点をカバーするため、もしくは「平均的なバランスの良さ」を気に入ったということらしい。
英グラスゴー大学の実験心理学者であるLisa DeBruineが率いるFace Researchは、ネットに設置した「face-averaging tool (顔平均化ツール)」を使って41カ国以上の人々の顔写真を収集し、その「平均顔」を作成した。
その結果、合成された顔はいずれも美男・美女。しかも「特徴のない平均的な顔」になった。これは良くも悪しくも、「DNAに偏りのない」相手を好ましく思うように私たちの本能がプログラムされていることによる。
たとえば、背の高い男性が背の低い女性を、スリムな人がぽっちゃりした人を......というのは「自分に欠けている部分を補いたい」という生物として本能かもしれない。
もちろん、人間は社会的な生き物。遺伝的、生理学的な理由だけで相手を選ぶわけではない。相手の人柄や性格、そして社会的な信頼性など、後天的に培われた知見によって好みも形成されていく。
「相手の心証」「家族どうしの相性」など、さまざまな要因も影響するだろう。とはいえ、パートナーを選ぶ際には、元来具わっている「生物としての側面」を意識した、よりプリミティブな選択もそう悪くないはずだといえる。
(文=編集部)