音楽の快感はセックスや麻薬と同じ?(depositphotos.com)
ヒトの基本的な欲求が満たされた際、活性化される脳内の神経経路のことを「報酬系」と呼ぶ。
音楽の心地よさもここに作用することが判明している一方、危険ドラッグなどの禁止薬物も同じ脳内報酬系に強く作用する。そのため、溺れれば薬物依存症に結びついてしまう。
そこで憶えてほしいのが、日本人にはいくぶん馴染みの薄い<オピオイド(opioid)>という言葉だ。これは「オピウム(opium:アヘン)類類縁物質」の意味をもち、鎮痛作用を有し、法律で医療用の使用が許可されている「医療用麻薬」の総称だ。
これらは薬理学的に「オピオイド鎮痛薬」というグループに分類されている。このオピオイドという言葉、なんだか最近どこかで耳にしたような気もするが……そんな音楽好きの方もいるだろう。
そう、昨年4月に惜しまれながら急逝した米ミネソタ州出身の天才アーティスト、プリンスさん(享年57)。彼の死因がこの、オピオイド系鎮痛剤の過剰摂取によるものだった。
好きな音楽が脳に快楽を与える
地元の検視官事務所が公表した報告によれば、腰痛に苦しむプリンスさんが自己投与していたのは、極めて強い鎮痛作用をもち、末期がんの痛みの治療に使われる合成オピオイドの「フェンタニル」だった。
米国内では悪質なペインクリニック、つまり大量の薬剤をホイホイと処方するような医師や診療所のことを「ピルミル:pillmills」と蔑称するそうだ。親の代理で治療薬を持参し、プリンス邸に派遣された専門医の息子も医師資格は持っていなかった。
そこで本題だが、2月8日の『Scientific Reports』(オンライン版)に掲載された、マギル大学(カナダ・モントリオール)のDaniel Levitin氏らによる最新研究報告も「音楽とオピオイド系」をめぐる、なかなか興味ぶかい知見なので紹介しておこう。
Levitin氏らは今回の研究に際し、ボランティア参加である大学生17名の協力を得た。いずれも音楽好きな17名の学生に対し、件のオピオイド系(=脳内の神経化学物質)を遮断する薬剤「naltrexone(国内未承認)」を投与し、それから各自に音楽を聴かせた。
結果、17名の被験者たちは、いずれも薬剤の効果が途切れるまでの間中、<大好きな音楽に接しても何ら喜びの感情を抱かなかった>という。
研究陣が導き出した結論はこうだ。
ヒトが好きな音楽に接することで得られる喜びは、セックスや禁止薬物、あるいは美味しいものを食べて満たされるのと同じく、やはり脳に快楽を与える刺激の経路(報酬系)によって誘発される――。
しかも、今回の研究によって、脳内のオピオイド系が音楽の喜びに直接関与するという点も初めて示唆された。