地域の子育て支援に相互扶助 xiangtao/PIXTA(ピクスタ)
子どもが体調を崩したときの保育は、働く親にとって仕事と子育ての両立にとっての大きな課題だ。基本的に保育所などは、「病児(病気になった子ども)」「病後児(病気から回復中の子ども)」を預かってはくれない。子どもが病気になったときに預ける「病児保育施設」も、全国的には少しずつ増えてきたが、まだまだその数は足りない。
そんな子育て家庭を支援する事業の一つに、厚生労働省と自治体による「子育て援助活動支援事業(ファミリー・サポート・センター事業)」がある。1994年に始まったこの事業は、「子ども・子育て支援新制度」の開始に伴い、平成27年度からは「地域子ども子育て支援事業」として実施されている。
育児サポートの対象は、子を持つ全ての家庭。子育て中の人や主婦など、地域で育児の援助を「受けたい人」と「行いたい人」が、市区町村や各地の社会福祉協議会が運営する「ファミリー・サポート・センター」に会員登録し、互いに助け合う。
利用方法は、預けたい日時を申し出ると、センターが連絡・調整を行い、預かる会員が紹介される。相互援助活動には、次のようなものがある。
・保育施設までの送迎。
・保育施設の開始前や終了後、学校の放課後に子どもを預かる。
・保護者の病気や急用などの場合に子どもを預かる。
・冠婚葬祭や他の子どもの学校行事の際、子どもを預かる。
・買い物などの外出の際に子どもを預かる。
・病児・病後児の預かり、早朝・夜間などの緊急預かり対応。
*預かる場所は原則として協力会員の自宅。
費用は、たとえば東京都新宿区の場合、1時間800円(7~19時)、1時間900円(19~22時)、1時間900円(年末年始および前述以外の時間)、病児の場合は1時間1000円(月~金・8:30~18:30)の利用料がかかる。神奈川県川崎市では、利用会員は年会費1200円を負担し、1時間700~900円の利用料を支払うなど、市区町村で異なる。また、自治体によっては野外活動、食事提供(保護者持参のもののみ)、車の使用を禁止するなど、規則にも違いがある。
現在、ファミリー・サポート・センター事業を実施している市区町村数(平成25年度実績)は、738市区町村(基本事業)、141市区町村(病児・緊急対応強化事業)。会員数(平成25年度末)は、依頼会員(援助を受けたい)46万6287人、提供会員(援助を行いたい)12万3173人。病児の預かりは少なく、これからの課題だ。
トラブルや事故のリスクを軽減するには
提供会員と依頼会員の双方には、原則講習がある。ただし、講習・研修はあっても、基本的に提供(預かる)会員は資格が不要だ。子育てを終えた主婦がボランティア的に預かるのも一般的になっているおり、事故やトラブルの不安があるのは否めない。
自治体や社会福祉協議会は保険に加入しているが、重大事故時に誰がどう責任を取るかについて、厚労省は「対応は実施主体に一任している」という見解だ。そのため厚労省でも、料金の安さや手軽さではなく、信頼できるかという視点でベビーシッター事業者の情報を集めるように注意喚起している。
2010年、大阪府八尾市では、ファミリー・サポート・センター事業で紹介された女性宅に預けた生後5カ月の赤ちゃんが、低酸素性脳症で脳死状態に陥り、2013年に亡くなった。うつぶせ寝による窒息を疑った利用者夫妻は、同市に調査を求めたが、市は「当事者間の問題」と不介入の立場を示した。その後、市や女性などに損害賠償を求めて大阪地裁に提訴したというケースも起きている。
このようなトラブルや事故のリスクを軽減するには、次のような注意点が挙げられる。
・居住する自治体や公益社団法人全国保育サービス協会に加盟している事業者のリストなどを活用する。
・子どもを預かってもらう会員に事前の面会をして、心構えや保育方針などを聞く。
・名前・住所・連絡先などを確認する。
・当日も面会した本人に預ける。
いずれにしても、預かる側との情報共有は大切なポイント。この事業の普及には、資格不要などの手軽さは欠かせない。利用する側もそれなりの意識をもち、民間のサポート事業とあわせて使いこなすことで、サービスの選択肢が広がるはずだ。
(文=編集部)