「セックスなしでは生きられない」は依存症? totallyPic/PIXTA(ピクスタ)
愛人の数は18人。病名はセックス依存症。そしてその代償として夫人に支払った慰謝料は7億5000万ドル(約600億円)──。
2010年、「セックス依存症」という概念を一躍日本でも有名にしたその人こそ、ゴルフ界のスーパースター、タイガー・ウッズである。
ことの発端は、タイガー・ウッズが自動車事故を起こし、その原因が夫婦喧嘩だと分かったこと。警察の事情徴収などから明らかになった喧嘩の原因は、タイガー・ウッズの並外れた女遊びだった。
その不倫の相手は、ナイトクラブの経営者やウェイトレス、ポルノ女優などなど。なかでもあるポルノ女優の女性はマスコミでウッズとのメールのやり取りの内容まで赤裸々に明かした。
そのなかには「アナルの次には君の口にアレを挿入したい」とか「いま聖水プレイに病的なほど興味津々」といった内容が書かれていたとか。ゴルフ場での冷静沈着な様子とのギャップに、アメリカ国民のみならず、世界が仰天した。
当時の報道によれば、セックス依存症と診断されたウッズは、ミシシッピ州にある治療施設「パイン・グローブ」に6週間入院。朝5時起床で8時から午後4時まで治療のプログラムで夜は10時半に就寝。酒、タバコ、セックス、オナニーやポルノビデオの鑑賞も禁止されたなか、カウンセリングや運動療法などの治療を受けた。
ちなみに、「パイン・グローブ」の治療費は3万7100ドル(約340万円)。だがVIPのウッズはさらに10万ドル(約920万円)の追加料金を支払ったともいう。
このような高額の医療施設が存在することが、アメリカにおいてセックス依存症という病気がどれほど深刻な病理として認知されているかという証だろう。セックス依存症とされた有名人はウッズだけではない。
「ブラック・レイン」「危険な情事」などの映画で知られる俳優のマイケル・ダグラスも、セックス依存症のために入院していた過去を告白。98年に全米を騒然とさせたクリントン大統領と実習生のモニカ・ルインスキーの不倫スキャンダル(大統領執務室でオーラルセックスをしたという)も、その背景にはクリントン大統領のセックス依存症があると報じられた。
「セックスなしでは生きられない」そんなあなたはセックス依存症?
私たちは、セックス依存症という病気についてどのように考えればいいのだろうか。人間の脳と快楽、そして依存の仕組みについて書かれた書物、『快感回路』(デイヴィッド・J・リンデン 岩坂彰訳 河出文庫)には、セックス依存症についてまずこのような疑問を提示する。
「セックス自体は生存に必須の行動ではないとはいえ、ほとんど誰もがする行動であり、また言うまでもなく異性間の性交渉は伝統的な種の繁殖法でもある」
つまり、分かりきったことだがセックスそのものは病的でもなんでもない。人間としてまっとうな行動である。それでは、どのような状態が「セックス依存症」と定義されるのか。
ジョンズ・ホプキンス大学の神経科学者であるデイヴィッド・J・リンデンは、根本的な基準は薬物やアルコールや食物の依存症と同じだとして定義付けをしている。同書では依存症全般にあてはめることのできる「当該行動」という言葉を使っているが、そこにセックスをあてはめるとこのようになる。
1.自分や周囲の人の生活に支障をきたしているにもかかわらずセックスを続ける。
2.当人が「普通と感じる」ために、また生活上の通常のストレスに対処するために、セックスが不可欠だと感じる。
3.セックスをやめると自分で決め、人にも約束していながら、繰り返しそれを破る。
4.セックスに走ってしまったことを後悔する。
そして、著者はこのように続ける。
「セックス依存症は現実に存在する。その苦しみは大きい。セックス依存症者は、ほかの依存症者と同じ経過をたどる。行動に耐性が生じ、快感を覚えるためにますます多くのセックスを必要とするようになる」
「必要なセックスが得られないと、身体的、心理的に離脱症状が生じる。また、最もはっきりしている点として、単なるセックス好きからセックスが必要という状態に変化していく。この段階で、生活に活力を与えてくれる素晴らしい快楽であったセックスが、日々の生活に向き合うために欠かせない作業の一つとなってしまう」
つまり、単にセックスが楽しいというだけではなく、セックスをしないではいられない、セックスなしには生活が送れないほど渇望するようになると、それは依存症へと片足をつっこみはじめているということだ。いや、ひょっとしたらそう感じた時点で立派な「セックス依存症」なのかもしれない。