卵はいくら食べても大丈夫?
「コレステロール」と聞いて、まだ多くの人は「血液がドロドロに」「太る」「悪玉と善玉」など、健康に悪いイメージをするだろう。数値の高さを気にしてアブラ(脂質)の摂取を控えている人も少なくない。
ところが、この"常識"がいよいよ変わろうとしている。「アブラは積極的に摂ったほうが体にいい」――。
今年2月、米厚生省と農務省が設置した「食事指針諮問委員会」で「コレステロールは過剰摂取を心配する栄養素ではない」という報告書を公表した。各種調査結果から、「食事によるコレステロール摂取と(動脈硬化などの病気の危険を増すこともある)血清コレステロールの間に明らかな関連性はない」と結論付けた。この見解は、米国人の食生活に関するガイドライン(2015年版)で示される。
日本でも昨今、「炭水化物(糖質)は控えたほうがいい」という「糖質制限」ブームが起きた。これを主張してきた医師の中にも、脂質の積極的な摂取を主張する人は多い。
これまで3000人を超える肥満や生活習慣病の患者を治療してきた、こくらクリニック(沖縄県)の渡辺信幸院長は、次のように説明する。
「コレステロール値が高くなると動脈硬化が起きると言われているが、元々の根拠となっているのは、1913年にロシアの病理学者ニコライ・アニチコフの実験。ウサギにコレステロールを与えたら動脈硬化を起こしたというものです。草食動物のウサギに無理やりコレステロールを食べさせても受け入れられるはずがない。しかも、このときウサギにできた動脈硬化は血管の外側。血管の内側にできる人間とは全く違う症状でした」
悪者にされたコレステロールは "被害者"だった?
コレステロールが動脈硬化の原因だと考えられてきたことについてこう言及する。「動脈硬化を起こした血管にコレステロールが付着していたことが発見されたのは19世紀のこと。しかし、近年の研究では、実際には動脈硬化による炎症で傷ついた血管をコレステロールが集まって修復しているということがわかった。火事でたとえると、『火を消すために現場に駆けつけたのに、そこにいるというだけで火をつけた犯人』とされた"被害者"だったわけです」
コレステロールは、体内に60兆個ある細胞の膜を構成する必須成分だ。そして、もうひとつの大事な役割は、ホルモンの材料になること。よく知られている男性ホルモンや女性ホルモンをはじめ、甲状腺ホルモン、体内の炎症を抑える副腎皮質ホルモンなどを合成する。
最近では、コレステロール不足が脳内物質セロトニンの不足につながり、うつ病やアルツハイマーの原因になることがわかっているという。
卵は一日3個以上食べたほうがいい
とはいえ、「コレステロールを食べすぎると太るのでは」という心配がある。
渡辺医師は「食べ過ぎた脂質は人体に吸収されず、最終的には水分と二酸化炭素として排泄されてしまうので、多くは下痢をしておしまいです。動物性脂肪を避ける人が増えていますが、肉の脂肪分には人の体内では合成できない必須脂肪酸が含まれています。体に必要な栄養素を摂らないから、体調を崩したり病気になったりする」と指摘する。
そこで渡辺医師が推奨するのは、肉(Meat)・卵(Egg)・チーズ(Cheese)を積極的に食べる「MEC食」だ。1日に肉200g、卵3個、チーズ120gを食べるのが基本。これだけで、毎日の必須栄養素をほぼ網羅することが可能だという。
「穀物・野菜中心の食事では必須栄養素が足りず、人体はガス欠状態になって傷みます。しかし、高タンパク質・高脂質のMEC食は、血液や筋肉や骨になる材料としては十分。その働きを助けるビタミンやミネラルも豊富です」
ただし、すでに世界的に規制の広がっているトランス脂肪酸は摂取を控えたほうがいい。心筋梗塞や狭心症のリスクを高め、アレルギー疾患を増加させる可能性がある。トランス脂肪酸は、マーガリン、ショートニング(食用油)、クリームなど人工的に作り出されたものに含まれる。
(文=編集部)