連載第14回 遺伝子検査は本当に未来を幸福にするのか?

23アンド・ミーが挑む第3の矢、ゲノム創薬によるイノベーション

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23andmeCEO.jpg23アンド・ミー創業者のアン・ウォジツキCEOは、Google共同創業者セルゲイ・ブリン氏の妻だ

 2015年3月12日。この日は、後世まで永く記憶される日になるのではないか。遺伝子医療の歴史に新たなフロンティア・スピリットを吹き込んだメモリアルデーとして――。

 世界に先駆けるDTC(Direct to Consumer=消費者向け)遺伝子検査サービスと製薬企業への遺伝子データ供給事業をグローバルに展開している23アンド・ミー。その両輪を支えるパーソナル・ゲノム・サービス・ビジネスに続く、第3の矢が放たれた。ゲノム創薬という新たなステージへ、また一歩コマを進めたのだ。

 ゲノム創薬とは何か? ヒトゲノム(ヒトの全遺伝情報)のデータベースを活用して、病気の原因遺伝子や原因遺伝子が作るタンパク質の情報を調べ、そのタンパク質に結合する分子や抗体から薬品を創る方法だ。

 ゲノム創薬は、多くのメリットがある。現在の薬品開発では、候補となる物質の作用を調べるために膨大なスクリーニング(選別試験)行う。したがって、開発経験の有無、開発期間の長さ、偶然性などの要因が薬品のクオリティや利用価値に多大な影響を及ぼす。

 一方、ゲノム創薬は、ヒトゲノムのデータベースに基づいて、一定の病気に関わるタンパク質の研究対象をあらかじめ絞り込んだうえで特定できるため、論理的・合理的・効率的な方法で薬品開発に取り組める。その結果、期間やコストを縮めながら、開発リスクを最小化し、創薬の有用性をより高めることができる。

 病気に関わるタンパク質の働きが分かれば、発症プロセスが解明され、さまざまな段階に応じた治療薬の研究が進められる。同じ疾患に対応した様々なタイプの治療薬や診断薬を創れる。疾患の原因を特定できれば、原因そのものに直接作用する薬品、原因物質を作らない薬品、薬品の効能をアップさせる治療薬、副作用の少ない治療薬などが開発できるのだ。

 このようにゲノム創薬は、患者ごとの遺伝子情報に基づいて、患者ごとの体質、疾患の罹りやすさ、病態、適量や副作用の大きさなどに応じた薬品開発が効率よく行える。つまり、治療の最適化が図れるので、オーダーメイド医療(個別化医療)や予防医療につながる。

世界最大の遺伝子データベースが付加価値を生む、消費者参加型のゲノム創薬

 ゲノム創薬に乗り出す23アンド・ミーは、新たに研究グループを立ち上げた。先陣の指揮をとるのは、スイスの製薬大手ロシュ傘下のバイオ医薬企業ジェネンテックで研究・開発部門の責任者として敏腕を振るい、2013年に医学界で偉大な貢献をした人に与えられるアルバート・ラスカー基礎医学研究賞を受賞したリチャード・シェラーCSO(最高科学責任者)だ。「23アンド・ミーは、次代の新フェーズ(局面)に入った。唯一無二の遺伝子データベースを利用した創薬の可能性に、とてもワクワクしている」とコメントしている。

 アン・ウォジツキCEO(最高経営責任者)は「「ヒトゲノムを人々のために役立てるという企業使命を全うできるビッグステップだ。新陳代謝や免疫システムに関連した疾患、眼の疾患、がんなどが創薬研究の対象になるだろう」と語っている。

 23アンド・ミーのゲノム創薬の社会的な意義は何か? 23アンド・ミーの収入源は、消費者からの解析サービス利用料と製薬企業からのデータサービス供給収入の二本立て。遺伝子データベースを介して、消費者と製薬企業などの医療業界を橋渡しするポジションだ。したがって、ゲノム創薬は、消費者が直接、製薬の研究開発に参加する道を開くことにつながる。

 「ゲノム創薬は、消費者や患者が研究や薬品の開発プロセスにダイレクトに、しかも主体的に参加できることを意味している。消費者や患者は、実験の被験者ではなく、このプロジェクトに貢献できる当事者メンバーなのだ。治療法発見のスピードや精度を高め、コストダウンに役立つだろう。私は、ジレンマや常識の限界を超えたい」。23アンド・ミーが果たすべきビジョンとミッションを世界に向けて高らかに謳い挙げるウォジツキCEO。そのプライドに満ちた発言は、ゲノム創薬の巨大なポテンシャリティを予感させる。

 世界最大規模を誇る85万人もの遺伝子データベースを活用したゲノム創薬の新たな出航だ。「唾液採取キット」や「ブルーム症候群のキャリア検査」によるDTC遺伝子検査サービスの成功を背に受けつつ、ジェネンテックやファイザーへの遺伝子データ供給やパートナー提携の順風に乗って、ゲノム創薬へ布石を打った23アンド・ミー。「パーソナル・ゲノム・サービス新大陸」発見のグレートジャーニーになるのだろうか?

 今回は、23アンド・ミーが挑むパーソナル・ゲノム・サービスの第3の矢、ゲノム創薬のトピックに迫った。次回は、グーグルがスタートした研究機関向けのヒトゲノム・データベースサービス、グーグル・ゲノミクスを紹介しよう。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。
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