連載第13回 遺伝子検査は本当に未来を幸福にするのか?

2015年は「パーソナル・ゲノム・サービス」の元年! 遺伝子検査サービスのビッグウエーブが到来

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 ブルーム症候群は、遺伝子の修復・複製をつかさどるヘリカーゼ(BLM)という酵素の機能異常が引き起こす先天的な難病だ。発症のメカニズムは解明されていない。紫外線の防御や感染対策、悪性腫瘍や糖尿病などの合併症の早期発見、抗生物質や抗がん剤の投与や外科的切除などの対症療法のほかに、患者が生存する道は遠い。

 ブルーム症候群の臨床診断は、異常な染色体を染め分ける姉妹染色体交換検出法で行う。しかし、ブルーム症候群の検査や治療に公的保険は適用されないため、簡便でコストパフォーマンスが高いスクリーニング(選別試験)の開発が長年待たれていた。このような医療ニーズや機運を受けて、FDAは「ブルーム症候群のキャリア検査」を承認した。医師が診断に介入しないDTP遺伝子検査をFDAが承認したのは初めてだ。

 ブルーム症候群のキャリア検査は、自分の遺伝子にブルーム症候群の変異があるかどうかをセルフチェックできる。ブルーム症候群の子が生まれる確率とリスクを知ることができる。子を授かるか授からないかを倫理的に判断する自由を手にできる。根治が困難な難病は多いが、ブルーム症候群のキャリア検査がもたらすベネフィットと恩恵は大きい。

 ただ、FDAは、ブルーム症候群のキャリア検査をクラスIIに分類している。クラスIIとは、体外診断用医薬品の基準のうち、医学的な治癒の可能性があり、重篤な健康被害のリスクが比較的少ない基準の段階をさす。つまりFDAは、ブルーム症候群のキャリア検査は一定の公的規制の枠組みが必要と判断しているのだ。今後は、難病など他の疾患の遺伝子検査も俎上に上がるだろう。FDAは、遺伝子検査の品質・精度・エビデンスの解釈や法的な運用が煩雑にならないように、柔軟な規制のフレームを検討しているのは確かだ。

 「この認可は、数ある難病のキャリア検査の足がかりにすぎない。今後は、もっと多くのDTC遺伝子検査の認可を得て、社会に有益な健康情報を提案し続けること、それが23アンド・ミーの不変の企業ミッションだ」。ウォジツキCEOは、パーソナル・ゲノム・サービスが向かうべき未来を見据えながら、23アンド・ミーがDTC遺伝子検査サービスを担うパイオニアとして、デファクトスタンダード(事実上の標準)の構築をめざす長期的なビジョンを語っている。

 23アンド・ミーが蓄積してきたDTC遺伝子検査サービスのデータベースは、多くのアカデミア、医療機関、製薬企業の関心を集め,ビジネス・チャンスを広げている。2014年7月、23アンド・ミーは、NIH(米国国立衛生研究所)から約140万ドル(約1億4000万円)の研究費の助成を受けた。アカデミアや製薬会社との共同研究やライセンス契約締結が活気を帯びている。医師と連携して、科学論文も発表。全米でストップしている「唾液採取キット」は、カナダに続いて、2014年12月に英国でも認可が下りた。米国内でのサービス再開も秒読み段階かもしれない。23アンド・ミーのDTC遺伝子検査サービスは,一気に追風に乗るのだろうか?

 次回は、遺伝子解析、遺伝子データ販売に続いて、23アンド・ミーが挑むパーソナルゲノムサービスの第3の矢、「ゲノム創薬」のトピックを追ってみよう。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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