連載第10回 薬は飲まないにこしたことはない

抗うつ薬の副作用で自殺願望が高まることも......うつ病を薬で治すことは難しい

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抗うつ剤の一番の副作用は「うつ症状」 shutterstock

 ストレスが蔓延する現代社会で、年々増え続けているうつ病患者。「うつ病を疑ったら早めに専門家の診断と治療を受ける」ということが、日本でも暗黙の了解となりつつある。うつ病の治療は「休養」「薬物療法」「精神療法・カウンセリング」の3つが基本といわれているが、なかでも中心となるのが薬物療法だ。

 抗うつ薬は化学構造の違いによって、「三環系(第一世代)」「非三環系(第二世代)」「 SSRI(第三世代/選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」「SNRI (第四世代/セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)」などに分類される。このうち今の主流となっているのが、三環系や非三環系よりも副作用が少ないSSRIとSNRIだ。

 うつ状態では、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの量が少なくなる。前者は幸福感や安らぎ、後者は意欲や集中力、自信などに大きな影響を与えるため、これらが減少して脳の機能が低下すると、「自分なんか生きていても仕方がない」「自分はなんてダメな人間なんだ」と思い込むようになってしまう。

 SSRIやSNRIは、循環しているセロトニンやノルアドレナリンを放出元の神経細胞に戻さないようにして、それらの神経伝達物質で脳内を満たす効果がある。物質の分泌量を増やすことではなく、特定の場所に溜めて、そこだけ量を増やすことが目的だ。ただし私には、循環して疲れているセロトニンやノルアドレナリンを戻さないことは、それらを同じ場所で酷使しているようにも感じられる。

 SSRIやSNRIは比較的、副作用は少ないといわれているが、飲み始めに吐き気などが起こることもある。驚くのは、SSRIとSNRIの一番の副作用がうつ症状だということ。実際に薬の添付文書にも「自殺願望が高まることがある」と記載されている。

 一方、三環系や非三環系の薬は、セロトニンとノルアドレナリンだけでなく、うつ病と関連のないアセチルコリンなどの物質にも作用するため、SSRIやSNRIよりも副作用が多いといわれている。

原因を特定し環境を変えることも大切

 ここまで第一世代から第四世代までの抗うつ薬について言及してきたが、これらの薬はうつ病の症状を軽減するだけであり、その原因となったストレス自体を排除するものではない。

 実を言うと、私はうつ病を薬で治すことは難しいと考えている。治療をするうえで重要なのは、「どうしてその病気になったか」を知ることだが、うつ病の原因は脳内のセロトニンやノルアドレナリンの量が減少したことだけではないからだ。

 うつ病を少しでも改善するには、まずは「発症の引き金となったのは何なのか」を特定する。子供が学校に行けないのはなぜか、夫が仕事に行けないのはなぜか。その原因が明らかな場合は、子供に薬を飲ませ続けて無理に登校させるのではなく、学校を休ませ様子を見て転校させる、高校生以上なら退学する、会社員なら休養を取った後に新しい仕事を探すなど、選択肢の幅を広げてみてもよいのではないだろうか。

 抗うつ薬は症状を軽くするかもしれないが、それだけでは本当の解決策にはならない。また、一時的にどうしても薬が必要な場合は仕方がないが、長期間にわたる抗うつ薬の服用は体や心に負担をかけることになるため、避けることが望ましいだろう。

連載「薬は飲まないにこしたことはない」バックナンバー

宇多川久美子(うだがわ・くみこ)

薬剤師、栄養学博士(米AHCN大学)、ボディトレーナー、一般社団法人国際感食協会代表理事、ハッピー☆ウォーク主宰、NPO法人統合医学健康増進会常務理事。1959年、千葉県生まれ。明治薬科大学卒業。薬剤師として医療の現場に身を置く中で、薬漬けの医療に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」を目指す。現在は自らの経験と栄養学・運動生理学などの豊富な知識を活かし、薬に頼らない健康法を多方面に渡り発信している。その他、講演、セミナー、雑誌等での執筆も行っている。最新刊『薬を使わない薬剤師の「やめる」健康法』(光文社新書)が好評発売中。

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