「嫌な記憶」が「楽しい記憶」にスイッチ? 脳の最新研究がうつ病治療に光明か!?

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海馬が記憶をスイッチ IzaVel/PIXTA(ピクスタ)

 「年をとって物覚えが悪くなった」とぼやくとき、その言葉の裏には「若いときの記憶は正確だ」という自負があるものだ。しかし、若いときでも人間の記憶は、かなりあやふやなものである。

 たとえば、あなたが「中2のときのクラスは暗かった。特に担任の先生と相性が悪かった」と長年思ってきたとする。しかし、あるとき同級生と再会し、「お前、いつも明るかったよな。担任の先生に気に入られてよく悪ふざけしてたよな」と指摘されて愕然とするのだ。

 そして、確かに先生と休日サイクリングに行って楽しかったことなどを思い出す。さらに、2学年の終業式の日、先生とちょっとした諍いが起こり、後日あやまろうとして自宅を訪ねたら引っ越しており、連絡先がわからなかったことを思い出す。そして、あやまることができなかったというネガティブな感情が「中2のときのクラスは暗かった」という記憶を作っていたことに気づくのだ。

 これと似たようなことは、誰にでもある。悪いことを忘れてしまう人もいれば、悪いことばかり覚えている人もいる。そして、それはうつ病にも関係がありそうなのだ。

●嫌な記憶が楽しい記憶にスイッチ

 

 利根川進博士といえば、免疫学で1987年ノーベル生理学・医学賞を受賞しているが、その後、脳科学の研究に取り組み、現在は理化学研究所脳科学総合研究センター長をつとめている。その利根川氏らが2014年8月、光でマウスの記憶を書き換えることに成功したと発表した。

 まず、オスのマウスを小部屋に入れ、脚に弱い電気ショックをほどこし苦痛を与える。このとき、脳の海馬という場所の活性化している部分にマークする。海馬は記憶にかかわる場所で、活性化した部分に苦痛の記憶が刻まれたのだ。そのため、マークした部分を光で刺激すると、脳に苦痛の嫌な記憶がよみがえり、電気ショックを与えなくても、マウスは体がすくんでしまう。

 しかし、この小部屋にメスのマウスを入れると事態は変わる。海馬のマーク部分に光をあてられているので嫌な記憶がよみがえっているオスマウスが、メスのマウスと1時間ほど遊んでいるうちに、その苦痛がなくなってしまうのだ。

 海馬のマーク部分が「嫌な記憶」から「楽しい記憶」に置き換わったためである。「嫌な出来事」が「楽しい出来事」の記憶にスイッチしたのである。そしてさらに逆の変化、つまり「楽しい出来事」が「嫌な出来事」にスイッチすることも確認された。

 実験は、海馬の隣にある好き嫌いや快・不快を決める扁桃体という部分でも行われたが、こちらはスイッチしなかった。

●「楽しい出来事の記憶」だけを思い出そう

 

 うつ病の人は、「嫌な出来事の記憶」ばかりが積み重なり、「楽しい出来事の記憶」を思い出すのが難しいケースが多い。これは海馬から扁桃体へのネットワークに不具合があるからではないか? と利根川博士らの発表は結論づけている。この、うつ病の科学的メカニズムの解明は、新たな治療法開発へつながるものと期待されている。

 それにしても興味深いのは、記憶のスイッチである。実験のオスマウスにとって最初、小部屋は辛い場所であった。しかし、異性と遊んだことで小部屋は楽しい思い出に変わったのである。どうせ記憶はあいまいなものなら、小部屋を楽しい思い出の場所として記憶しているほうが人生、楽しく過ごせそうである。

 私たちの人生は、苦しいことばかりのように思えるが、意外に楽しいこともたくさんあって、しかしそれを記憶していないのかもしれない。
(文=編集部)

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