企業側がうつ病の社員を"歓待"する時代に?
2014年12月27日、「障害者雇用率うそ報告で職員処分」という事件が報道された。独立行政法人労働者健康福祉機構が、雇用義務のある障害者数を水増しして虚偽の報告を行った、というものだ。
ここでの「雇用義務」とは、障害者の雇用の促進等に関する法律によるもので、法的責務は厚生労働省の下にある。今回摘発されたのは同省の外郭団体。そのうえ、同省からの出向者も事件に関与しており、その悪質性は高いといえる。
一昔前まで障害者雇用は、主に企業のイメージアップあるいはCSR(社会的責任)活動の一環という位置づけだった。社会的な好感を得ることで、企業のステータスがアップする。その狙いが何であれ、障害者雇用の現場は良心的な対応が求められ、企業の資質が問われる取り組みだったといえる。
しかし、これからの時代は違う。会社の意向に関わらず、一定規模以上の企業には障害者を雇用する義務が課せされ、雇用率に満たない企業は納付金の徴収があるなど、厳しい時代になってきた。
障害者の枠で雇用されると、週20時間からの就労や、負担の少ない業務などの処遇が認められる。受け入れ態勢が整っていない企業にとっては、やや厄介な雇用制度だ。先のニュースのような水増し不正は、ますます生じるだろう。
障害者雇用という新しい働き方
これから障害者雇用は、より身近な制度になってくる。2018年から精神障害者の雇用が義務付けられるからだ。事実、近年では知的障害や身体障害よりも、精神障害者の雇用者数はぐんと上昇している。
厚生労働省が2014年5月に公表した平成25年度の障害者の職業紹介状況では、ハローワークを通じた障害者の就職件数が前年度から大きく伸び、77,883件(対前年度比 14.0%増)と4年連続で過去最高を更新。いずれの障害種別でも増加しており、特に精神障害者は29,404 件と前年度に比べて23.2%増加し、身体障害者の就職件数を初めて上回った。
精神障害者といわれてピンとこなくても、「うつ病」が含まれるとなると、他人事ではなくなる。誰でも一人ぐらいは、うつ病を患っている知人や友人が思い当たる時代だ。ストレス過多な現代、それまでは健康に暮らしていた人が、深刻なうつ病に陥るリスクは残念ながら高い。
これまでは、うつ病を患うと正社員で休職期間を得られても、スムースに職場復帰できるケースは意外に少なく、最終的には退職してしまうのが通例だった。
うつ病になったと知れると、職場でも「もう働けないのでは」とみなされてしまうこともある。そのため休職の本当の理由を周囲に明かせず。復職後は「体調不良だったが、もう良くなった」と取り繕って、以前のように働きやがて再発。こんな悲劇が繰り返されてきた。
しかしここにきて、障害者雇用政策が推進され、精神障害者の雇用義務を3年後に控えて、うつ病を患っている社員の復職支援が注目されている。
企業としては、雇用義務を全うするために新たな人材を雇い入れるよりは、すでに社内事情も業務内容も承知している社員を「障害者」として雇用する方が、ずっと効率的だ。うつ病の社員を"お払い箱"にするよりも、むしろ"歓待"する動きが出てきている。
医療や福祉の現場でも、うつ病の人たちの復職を見据えた就労支援が盛んになりつつある。万が一、あなたがうつ病になっても「首になる」「先がない」、そんな焦りや考えにとらわれることはない。しっかりと治療に取り組めれば、病名を明らかにしつつ、雇用継続の交渉ができるようになるのだ。
仮に離職しても、前向きに就活すれば、別会社に障害者枠で雇用されるチャンスもある。給料は減るかもしれないが、就業時間や業務負担も確実に軽減できる。しかも企業の障害者雇用率の達成に貢献しながら働ける、そんな新しい生活を手にできるだろう。
(文=編集部)