最後まで異常な執着
このあまりに異常な頑迷固陋によって感染が全国に広がる理不尽な展開には多くの国民からも厳しい眼が集まり、12月上中旬の世論調査では菅内閣の支持率は急落した。11日には分科会が東京、大阪などで感染拡大が止まらなければGoToを停止するよう求めたが、菅首相は「ガースーです」と冒頭に自己紹介して不評を買ったインターネットテレビ番組への出演の中で、停止について「まだ考えていない」と語り、専門家たちとの考え方の違いが鮮明になった。尾身会長は記者会見で「医療機関はもはや通常の医療とコロナの医療を両立することが難しくなっている」と医療の危機的状況を強調した。
国民から批判され、専門家からもはっきり指摘され、追い込まれる形で菅首相は14日、ようやくGoToトラベルを12月28日から今年の1月11日まで「全国一斉に一時停止する」と表明。さらに札幌、大阪市に加えて東京都と名古屋市を目的地とする旅行は27日まで停止し、出発地とする旅行は同日まで利用の自粛を呼び掛けると発表した。
だが、GoToトラベルを断念したにもかかわらず、なぜ停止を年末の28日まで2週間も待つのか。その間にクリスマスもあり、これだけ時間があれば駆け込みの旅行をする人もいるかもしれない。さらにはなぜ東京はじめ大都市の出発地とする旅行が停止でなく、自粛要請にとどまるのか。意地でもできるだけ長く続けるという往生際の悪さは、GoToへの異常な執着を浮き彫りにする。
手遅れの緊急事態宣言
このような不徹底さは「後手」というレベルを超え、もはや「手遅れ」という域に達している。年末年始には休業する医療機関が多いにもかかわらず、首都圏を中心に多くの感染者が発生。休み明けの1月4日は東京都で1524人、全国ベースでは8日に7957人と、いずれも過去最多を記録した。こうした感染拡大を懸念し、政府は7日、東京都と埼玉、千葉、神奈川3県を対象に、8日から2月7日までの1カ月間にわたる緊急事態宣言を発令することを決めた。それにしても、よりによって感染者が過去最高となる日に宣言を発するなどあり得ない。火の勢いがピークに達するのを待ってから放水を始めるバカは、日本の政治家と官僚以外にはいない。
宣言の発令は昨年4~5月の第1波の時以来2回目だ。その後に大阪など関西3府県と中部2県、福岡、栃木両県が追加され、一時11都府県に拡大された。首都圏以外は2月末までに解除されたが、首都圏は緊急事態宣言が2カ月以上にわたる3月21日まで続いた。
しかし、それで収束することなく、政府は4月25日、東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に三度目の緊急事態宣言を発令。その後も対象地域を広げながら延長を繰り返し、6月20日まで宣言を持続しなければならない状況に追い込まれている。
一方、1月11日までの「一時停止」となっていたGoToはその後も再開されることはなく、政府が再開を口にすることはなかった。当然である(続)
(文=荒木健次/ジャーナリスト)
※月刊『地域と労働運動』(ぶなの木出版) 第249号(5月25日付)より転載、一部加筆
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