東京解禁で感染爆発
大量の後援会会員を招待した桜を観る会の私物化問題や、失策続きのコロナ対策に嫌気を差した安倍首相が8月末、持病の潰瘍性大腸炎を口実に辞任を表明し、菅官房長官が自民党総裁選を経て9月16日、首相に就任した。コロナの第2波は8月上旬をピークに下降してはいたが、感染者数は9月に入っても500人規模で推移し、下げ止まり状態が続いていた。
それでも菅首相はGoToトラベルを強化し、10月1日からそれまで除外していた東京発着の旅行にもキャンペーンの適用を開始した。GoToトラベルは菅首相の肝いり政策。観光業界は菅首相誕生の流れを作ったとされる二階俊博自民党幹事長の金城湯池で、二階氏への配慮も働いているが、菅氏もカジノを核にした統合型リゾート(IR)を推進するなど観光分野には強い関心を示してきた。GoToを「コロナ対策と経済政策の両立」を目指す最大のツールの一つとして位置づけ執着は相当に強い。最も人口の多い東京が入らなければこの政策は完結しない。
だが、東京を解禁すると、10月下旬から感染者数は上昇し始め、11月5日には1000人台に突入、中旬には第2波のピーク(8月7日1605人)を超え、急カーブを描いて増加を続けるに至った。
これと相前後する形で菅首相は「感染拡大を抑えながら経済の持ち直しの動きを確かなものにし、民需主導の成長軌道に戻す」として、追加の経済対策を盛り込んだ3次補正予算の編成を指示。クラスター対策の強化などの感染防止対策とともに、ポストコロナへの経済構造転換や国土強靱(きょうじん)化を柱にすることを打ち出し、GoToキャンペーンの追加予算も盛り込むことにしたが、GoToの見直しには慎重だった。
一方、コロナ感染の急増に危機感を抱いた政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は11月12日、「感染の増加傾向が顕著な現状においては、実際の行動変容や適切な受診行動につながるよう、情報発信を強化することが緊急課題」とする提言をまとめ、尾身会長は記者会見で感染状況が悪化すればGoToの停止を求める考えを示した。
北海道は感染が急増し、GoToキャンペーンからの除外を求める声も出始め、東京でも感染の拡大傾向が強まっていた。野党や東京都医師会はGoToトラベルの中断を要求した。こうした声に対し、菅首相は「専門家も現時点でそのような状況にはないと認識している」「(GoToが)感染を広げているとは理解していない」などと述べ、あくまでも政策を貫く考えを変えなかった。
業煮やす専門家たち
態度を変えない菅首相に業を煮やした感染症対策分科会は11月20日、感染拡大地域に対するGoToキャンペーンの適用を除外するよう求めると提言。感染者が急増し「ステージ3」に近づきつつある地域があると警鐘を鳴らした。尾身会長は分科会後の記者会見で札幌は既にステージ3に達し、東京、大阪もそれに近づいているとし、「政府の英断を心からお願いする」とまで表明した。
これを受けて政府は翌21日、運用の見直しを決めたが、具体的な内容は決めず、24日になってようやく札幌と大阪両市についてGoToトラベルの適用を12月15日までの3週間、一時停止することを決定した。ただ、あくまでも両市を目的地する旅行で、両市から出発する旅行は引き続き助成対象とする極めて不徹底なものだった。しかも肝心要の東京は対象から外した。
尾身氏は11月25日の会見で各都道府県に「年末年始を穏やかに過ごすため、この3週間集中して強い措置を講じる」ことを求めるとともに、東京23区、名古屋市はステージ3に該当するとの考えを明らかにした。菅首相は27日、分科会からこの3週間に集中して措置を講ずるよう求める提言があったとし、札幌、大阪両市から出発する旅行の利用も控えるよう呼び掛けたが、依然として東京は手付かずで、札幌、大阪の追加策も自粛要請にとどまった。
東京をどうするかが問われる中、12月1日、菅首相は小池百合子東京都知事と会談。小池氏は65歳以上の高齢者と糖尿病などの基礎疾患を持つ人に対し、GoToトラベルの東京発着分について利用を控えるよう呼び掛けると伝え、菅首相はそれに理解を示した。つまり、国は自粛要請に応えた人のキャンセル料を出すというわけだ。しかし、なぜ高齢者と基礎疾患を持つ人だけなのか。感染拡大を防止するためなら全ての東京発着分を対象にしなければ意味がない。ここでも菅首相のGoToに固執する態度は変わらなかった。