今動物病院で何が起きているのか?
2000年以上の歴史がある東洋医学は日本の現代保険制度に組み込まれ一般化しつつある。しかし、ペットに対する東洋医学の導入や活用はそれほど歴史があるわけではない。かまくらげんき動物病院の石野孝院長はその先駆者の一人。切り開いてきたのはペット中医学の世界だ。
「人の中医学(東洋医学)と同じように2~3千年前、牛や馬、豚など家畜に対する医学が始まっています。馬は軍馬としての健康管理をするための専門の獣医も生まれたようです。しかし、家畜ではなくペットに対する医療はごく最近のことです。そもそも中国でペットを飼い医療をほどこそうという習慣がなかった。ペットに対するする医療は1990年代ごろから、むしろ日本や欧米で東洋医学を研究した人たちがペットへの導入を研究し始めています」と石野院長。
試行錯誤の連続だった90年代
父は鍼灸師で獣医師を目指した石野院長は、中国の内モンゴル自治区に留学し動物用の中医学を学ぶことになった。遊牧民が牧畜する環境で医療器材や薬が本当に乏しくて、草原に豊富にあった薬草を使い、往診には鍼を持って行ったという。
「中医学をペットのために活用しようと開業したのが1993年。開業当時はペットも雑種がほとんどで、ペットにお金を使う人の割合はまだまだ少なかった。そんな時に犬に漢方や鍼灸を使うというと、同業者からも笑われたものです」と振り返る。
1990年代にこの分野の先駆者は鍼灸や漢方薬などの症例を積み重ねながら試行錯誤を繰り返した。ツボの場所も決まっていなかったため牛や馬のツボを活用していたようだ。
「背骨の数も違うので、世界的なツボの基準はありませんでした。さらに中国で使う鍼は太いものだったため、日本のペット用に痛くない細い鍼を開発しなければいけない。産業動物用の中医学ではなくむしろ人の中医学を参考にして進んできたという特徴が強いので私たちは『ペット中医学』と呼ぶようにしています。現在は日本発信のペットのケアを国内で普及させ海外に発信している状況です」と石野院長。