がん検査の最先端を行くマイクロRNA
一方、血液1滴から13種類のがんを99%の精度で2時間以内に検出する技術の実用化も間近となっている。
血液中に含まれる「マイクロRNA」と呼ぶ分子を調べることで、がんを検出するこの技術は、国立がん研究センターが中心となり、2014~18年に実施されたプロジェクト「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」の成果をベースに、東京医科大学、国立がん研究センター研究所との共同研究によって確立された。
13種いずれかのがんの有無について、簡便かつ高精度に検出するこのスクリーニング検査に、東芝が新たに開発したマイクロRNA検出技術とそのためのデバイスを融合させたことで、実用化の道が開けた。今後、東京医科大学の落谷孝広教授らが中心となって20年から実証試験を実施する予定だ。
マイクロRNAは20個前後の塩基から構成され、遺伝子の発現を調節するRNA(リボ核酸)だ。人間の体内に2000種類以上が存在する。近年、がん細胞間の情報伝達を司るエクソソームに内包されているマイクロRNAは、がんの増悪や転移に深くかかわっているため、がん医療の分野で高い関心を集めている。
東芝が今回開発した検査技術の価格は、2万円以下を想定。現時点では13種類のがん種やステージを個別に識別できるわけではない。線虫を利用した「N-NOSE」と同様に、将来的にはがん種やステージを特定できるようにすることが最大の課題となる。
もちろん、こうした検査技術の開発にしのぎを削るのは日本だけではない。
一昨年、米ジョンズ・ホプキンス大学キンメルがんセンターのジョシュア・コーエン氏らの研究グループは、1回の血液検査だけで8種類のがんの有無を判定し、がんの位置も特定できる新たな検査法「CancerSEEK」を開発したと発表した。
発表によれば、乳房、大腸、肺、卵巣、すい臓、胃、肝臓、食道の8種類のがん(ステージ1~3)がある患者1005人を対象に、CancerSEEKを行ったところ、33~98%の確率でがんを発見できた。さらに、有効なスクリーニング検査法がない5種類(卵巣、肝臓、胃、すい臓、食道)のがんも69~98%の高精度で発見できた。
この研究もやはり、がん細胞が分泌する「マイクロRNA」に着目した検査技術だ。