風邪に抗菌薬は効かない! 脱却しなければならない「念のため医療」

この記事のキーワード : 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

がんの死亡者数を超える耐性菌による死者

 抗菌薬の薬剤耐性に関する話題は最近の報道でも耳にする機会が増えたのではないだろうか。AMR(Antimicrobial Resistance)という略語で報道されることもあり薬剤耐性、つまり抗菌薬が効かない菌が出現する問題である。(抗微生物薬適正使用の手引き 第二版 - 厚生労働省)

 近年、耐性菌は世界中で増えており2013年耐性菌に起因する死亡者数は低く見積もって70万人とされている。このまま何も対策を講じなければ2050年には世界で1000万人の死亡が想定され、これはがんによる死亡者数を超えるとすら言われている。http://amr.ncgm.go.jp/medics/2-4.html いかにその問題が深刻かお分かりになるだろう。

 最近では「抗菌薬はあまり使わないほうが良いと聞きましたよ。私の症状なら不要ですよね。」と、こちらから処方するつもりはなくても、あらかじめ患者の側から尋ねてくるケースもみられるようになった。AMR対策が徐々に浸透してきている結果と言えよう。

 薬は、医師による適切な診断あってこそ処方されるものである。抗菌薬も必要な時には極めて重要な薬であることは間違いない。しかし残念ながら今も患者側からの要望で安易に処方がなされてしまうことが無いとは言えない。

 さらに適切な使用とは言えない抗菌薬の中でも比較的新しい、広域抗菌薬と言う幅広い細菌の種類に効果を示すものが頻用されることがある。この場合はより耐性菌の出現を懸念すべき状況なのである。それは耐性菌以外の細菌が減少し、耐性菌が相対的に増加することで耐性菌が増殖の機会を得るからである。
( http://amr.ncgm.go.jp/medics/2-1-4.html )
新しく開発され、ここぞという限られた状況で使うべき薬が耐性菌のために使いにくくなってしまえば感染症治療が上手くいかないことも想定されるがこれは是非とも避けたい。

 ここまで耐性菌についての話題であったが、それはどこか病院の中の問題、日常生活とは離れたところの問題と考えてしまわないだろうか?重篤な疾患、高度医療を施す高次医療機関、院内感染などをイメージするかもしれない。しかし今では外来患者にも広がっており治療を難しくする要因となりつつあるのだ。
(http://medical.radionikkei.jp/kansenshotoday_pdf/kansenshotoday-161228.pdf)

 実際に、健康な生活を送っていたはずの若年患者の尿などから耐性菌が検出され感染症の原因となっていた事例も経験し耐性菌に対する対策は待ったなしの状態であると実感する。

 耐性菌はその患者個人の問題となることはもちろんだが、家族内でも、ひいては患者が住む地域の問題にもつながる。つまりある病院や地域で新規の抗菌薬が頻回に処方されればその抗菌薬が効きにくい耐性菌がそこに出現しやすくなるのだ。
(http://www.kansensho.or.jp/ref/d71.html)
(http://amr.ncgm.go.jp/pdf/201904_outbreak.pdf)

 かぜ症状で医療機関を受診した場合、いつもの風邪と異なる症状があれば詳しく伝え、医師と考えられる病態について説明を聞きしっかり話し合っていただきたい。そのうえで医師から「今回はかぜ症状が主な症状ですから鎮痛薬や咳止めを使っておきましょう。抗菌薬は不要でしょう。」と提案されたなら。その言葉はあなた本人の今と未来を、そしてあなたの家族をも守ろうとする思いが込められた提案であると理解していただきたい。

(プライバシー保護のため実例を一部改編しています。このコラムは個人的な見解を示すものであり、筆者の所属機関の見解を示すものではありません。)
(文=藤川達也)

藤川達也(ふじかわ・たつや)
三豊総合病院総合診療内科部長
1998年岡山大卒。米国ハーバード医科大附属ベスイスラエルデーコネス病院リサーチフェロー、市立備前病院、清恵会病院などを経て現職。
※医療バナンス学会発行「MRIC」2020年2月3日より転載(http://medg.jp/mt/)

バナー1b.jpeg
HIVも予防できる 知っておくべき性感染症の検査と治療&予防法
世界的に増加する性感染症の実態 後編 あおぞらクリニック新橋院内田千秋院長

前編『コロナだけじゃない。世界中で毎年新たに3億7000万人超の性感染症』

毎年世界中で3億7000万人超の感染者があると言われる性感染症。しかも増加の傾向にある。性感染症専門のクリニックとしてその予防、検査、治療に取り組む内田千秋院長にお話を伺った。

nobiletin_amino_plus_bannar_300.jpg
Doctors marche アンダカシー
Doctors marche

あおぞらクリニック新橋院院長。1967年、大阪市…

内田千秋

(医)スターセルアライアンス スタークリニック …

竹島昌栄

ジャーナリスト、一般社団法人日本サプリメント協会…

後藤典子