『ラジエーションハウス』では描かれない日本のCT・MRI“異常過多”の危険性

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なぜ日本には多くのCTやMRIが導入されているのか

 十数年前のものだが、日本では画像診断によってがんが3.2%(年間7587件)増える可能性があると指摘する論文が医学雑誌「ランセット」に掲載されている(Amy Berrington de Gonzalez, Sarah Darby: Risk of cancer from diagnostic X-rays: estimates for the UK and 14 other countries. Lancet 363:345-351, 2004/2004年3月10日)。

 ゴンザレス博士らは画像診断の被曝による放射線で誘発される9種類のがん(食道、胃、結腸、肝臓、肺、甲状腺、乳房、膀胱、白血病)が75歳までに発症する確率を、英国と先進14カ国について比較した。

 ただ、画像診断による低線量被ばくによる発がんの可能性や発がん率は定説がないので、明確なエビデンスはいまだ不明だ。画像診断による「がんの発生と死亡率」に関して、さまざまな果敢な研究が米国で続いている。その成果は必ず実を結ぶだろう。
 
 むしろ、ゴンザレス博士らの論文が指摘した重要なことは、日本の画像診断による検査数やCTの保有台数が非常に多い点だ。

 厚労省『医療機器の配置及び安全管理の状況等について』(2016年7月15日)と「OECD health Statistics 2015」から、OECD(経済協力開発機構)諸国と比較した日本のCTとMRIの保有台数を見てみる。
 
 CTの保有台数(100万人当たり)は、日本は101.3台で、2位以下のオーストラリア53.7台、米国43.5台、アイスランド40.5台、デンマーク37.8台から大きく飛び抜けている。MRIの保有台数(100万人当たり)でも、日本は45.9台で、2位以下の米国35.5台、イタリア24.6台 、韓国24.5台、ギリシャ24.3台と比べて、やはり群を抜いて多い。

 CTとMRIの保有台数は、それぞれOECD平均の4.1倍、3.27倍に達している。日本のCT保有台数は、1万人に約1台という高率だ。

 なぜこれほどまでに、CTやMRIなどの診断機器の保有台数が異常に多い国になっているのか。それは、CTやMRIなどの診断機器の設置基準が明確でない上に、医療従事者や患者の医療被曝への意識が低く、国民が公的健康保険制度による低費用の検査に依存している状況にあるからだといわれる。

 さらに、国内の医療施設で働く放射線科医は6587名と少ない(「平成28年 医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」より)。1人の放射線科医当たりの検査回数は年間約5000回となり、その負担はかなり大きい。『ラジエーションハウス』でも、あまりの読影件数の多さに疲弊する放射線科医の姿が描かれている。

大病院よりクリニックに多いCT、MRIは無駄?

 さらに日本の保有施設数はCTが診療所5001(43%)、病院6627(57%)、MRIが診療所1669(33%)、病院3466(67%)と、CT、MRIともクリニックレベルにも多く設置されている特徴がある(厚労省『医療機器の配置及び安全管理の状況等について』<2016年7月15日>)。

 CTやMRIなどの高額医療機器が大病院だけではなく、市中の小規模な病院や診療所に分散しているこうした状況に対しては、医療機器の非効率的な運用が行われ、患者の健康維持より医療機器の維持と利益確保のために活用されている傾向があり、その結果として無駄で危険な医療被曝と医療費の高騰につながっていると批判される。

 もちろん、解決策がまったくないわけではない。それは、次のようなものだ。

・欧米のようにCTやMRIなどの高額医療機器に厳しい施設基準を設ける
・都市部に高額医療機器を集約し、より効率的かつ高レベルの医療を実現する
・専任する放射線科医、放射線技師の雇用を義務づけ、品質管理を徹底する
(「京都府立医科大学雑誌」120(12),943〜951,2011 特集「放射線と健康」米国発,医用画像の過剰使用問題は我が国へも波及するか~山田惠)

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