クリニックレベルでも普通に導入されているCT検査
放射線技師や放射線科医の苦悩と葛藤を描く連続テレビドラマ『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』(フジテレビ系)が4月8日にスタートして以来、注目を浴びている。レントゲンやCT(コンピューター断層診断)で病変を撮像し、病気の原因を探る放射線技師と、病変の有無を診断(読影)する放射線科医たちの葛藤を描く医療ドラマだ。
実は日本は、がんや重篤な生活習慣病などの早期発見・早期治療に欠かせないCTやMRI(磁気共鳴画像)などの高額医療機器の保有台数が、国際的に見て異常といえるほど多い。一方で、放射線診断専門医が圧倒的に不足しているというアンバランスがある。『ラジエーションハウス』を視聴しているだけでは、こうした現実は見えてこない。
過剰な画像診断は被爆と無駄な医療費の原因となる
国際的に突出したCT・MRI大国である日本に対しては、かなり前からその危険性を指摘する報告がいくつかなされている。問題は大きく分けて、「被曝のリスク」と「医療費が膨大なものになる」という2点だ。
画像診断の発達は、医学に驚異のイノベーションをもたらした。だが、CTや放射性医薬品による検査で使用する電離放射線量は、胸部X線撮影やマンモグラフィーなどの標準的なX線検査のおよそ50~500倍以上の高線量だ。高線量の放射線が広範囲に照射され、検査回数が増加すれば、低レベルでも発がんリスクが高まることは予想に難くない。
米国では、放射線技師や放射線科医などが受ける業務上の被曝の実効線量は、5年間で100ミリシーベルト(mSv)(年間平均20mSvかつ1年間の上限50mSv)に制限される。
エモリー大学医学部のレザ・フェイゼル博士らの研究チームは、毎年1000人中約194人が中線量(3~20mSv)を、1000人中約19人は高線量(20~50mSv)を、1000人中約2人は非常に高線量(50mSv超)をそれぞれ被曝し、毎年およそ4万人が年間20mSv以上の放射線を被曝したと報告した(「The New England Journal of Medicine」2009年8月号)。
また、フレッド・メトラー博士は、画像診断による1人当たりの実効線量が10~15年で倍増、26年間で被曝量が約6倍、56年間で放射線または放射性医薬品を用いた年間の診断回数は約15倍に増加したと発表した(「Radiology」2009年11月号)。
米国をはじめとする先進国では、放射線診断件数はやはり急増しており、スミス・バインドマン氏らはCTが同種にもかかわらず、同一施設内および異なる施設間でもCT検査の種類ごとの線量の最大値と最小値間に平均13倍の差があった事実を報告した。
バインドマン氏は「同種のCT検査を異なる施設の医師らが異なった技術パラメーターを用いたからだ」と説明。「CT検査の種類に応じた許容線量の基準がなく、許容できない線量になる。被曝量を30~50%軽減するための規制はない」と指摘する(「Archives of Internal Medicine」<2009 年 12 月号スミス・バインドマン氏らの研究>より)。
こうした米国の状況に対して、コロンビア大学・内科医学と放射線医学のアンドリュー・アインシュタイン博士は「検査の正当化、検査法の最適化、診断基準レベルの平準化という放射線防護の3原則を徹底しなければならない」と主張する(「Archives of Internal Medicine」<2009 年 12 月号>)。