おだやかな表情はどこまで再現可能か
2008年制作の映画『おくりびと』のヒットや、佐々涼子著のノンフィクション『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』の話題で、今や遺体処理の諸々技法であるエンバーミング(embalming)の呼称も一般に浸透しつつある。
その起源は、当時の交通手段上、死亡兵士の遺体帰還までに時間を要した1860年代の米国・南北戦争にまで遡るという。
今日のエンバーミングがわが国に導入されたのは1988年のこと。だが、導入当初は200件を下回った処置件数も、2010年代に入ると2万件を越え、2015年時点では3万3000件以上の需要があった。
となると、和也が亡くなった1980年代初頭はまだ、エンバーミングの名称も技法も国内では未導入だったと考えられる。
では、(そこはあくまでも漫画上の描写だから、と割り引いたとしても)南が対面した和也のあの穏やかな表情の再現、たった1コマで全てを語らせた永遠の安らかな笑顔は当時の日本で修復可能だったのだろうか……。
また、病死などの自然死と違う交通事故による死亡の場合、手続きが増えたり違ったりすることがある。病院や自宅で医師が付添う状況でなければ、すべて変死扱いとなるからだ。
交通事故でも、医療機関に搬送されているときは生存していて、治療後に亡くなるケースならば医師の死亡診断書が出されるが、事故で即死だったり搬送時に亡くなるケースは、警察による検死が必要な場合がある。
漫画史に残る「上杉和也の死」を現実にシミュレーションすると、やはり劇画的なシーンだったように思える。
今夏で記念すべき100回を迎える全国高校選手権大会。272校262チームが参戦する東・西東京大会も今が熱闘たけなわの最中だが、全国の現役部員が16万人割れの「野球離れ」が危惧されてもいる昨今。高野連は、『タッチ』効果の再考も検討されてはいかがだろうか。
(文=編集部)