睡眠の質も改善すると期待される
ノビレチンによって体内時計の働きが整うと、どんな効果が期待できるだろうか? ノビレチンについて研究している中部大学(応用生物学部)の禹済泰(ウ・ゼテ)教授に聞いた。
「時計遺伝子の振幅が大きくなるとは、つまり、昼と夜との体内活動にメリハリがつくということ。神経系や免疫系、内分泌系、代謝系など、体内のありとあらゆる働きに日内変動のリズムがあるわけですから、それが正常化すれば、健康を土台から整える大きな意義があるでしょう」
特に不眠や夜間頻尿の改善に効果が期待できそうだという。
「私たちは、ヒトを対象にした試験でノビレチンに排尿障害の改善作用があることを見出しました。試験では、夜間頻尿の改善も認められています。そこに体内時計の調節作用が関与している可能性があるので、人試験で検証する計画をしている」
夜間頻尿にはいくつかの原因がある。膀胱の容量が減少してしまうこと、夜間の尿量が増えること(夜間多尿)などだ。尿は本来、日中に多く作られる。ところが、心臓や腎臓の働きが低下すると、夜間に尿量が増えてしまう。
また、高齢になるに従い、夜間の尿量を減らす抗利尿ホルモンの分泌量や働きが衰えてしまうのも原因の一つだ。さらに、睡眠障害も大いに影響する。
「体内時計の乱れによって眠りが浅かったり、排尿のリズムが前にずれていたりすることで、夜間に尿意を覚え、目がさめてしまうことがあります。逆に、夜間にトイレで目が覚めてしまうと、その後、眠れなくなって不眠につながる悪循環が生じてしまいます」
「夜間の尿意に煩わされなければ、当然、睡眠の質も改善されると期待できます」
体内時計の調節効果が認められたサプリメントは少ない。海外ではメラトニン(脳の松果体から分泌され、睡眠を促すホルモン)が、サプリメントとして市販されている。しかし、日本ではメラトニンを製造・販売することは認められていない(ただし、個人輸入では入手可能)。
また、安易な摂取は、結果的にメラトニン分泌量を減らしたり、生殖機能の低下を招いたりと問題があると、警鐘を鳴らす専門家もいる。そうした中、ノビレチンには今後さらに注目が集まりそうだ。
(取材・文=山本太郎)
禹済泰(ウ・ゼテ)
中部大学応用生物学部教授(琉球大学客員教授も兼任)、株式会社沖縄リサーチセンター代表取締役社長。1992年、東京農工大学・博士(農学)、2009年、東京医科大学(医学博士)、東京工業大学生命理工学部助手、米国ノースウェスタン大学医学部客員助教授を経て現職。