睡眠欲よりも概日リズムが勝る?(shutterstock.com)
明日一日は、何の予定もない真の「休日」――。ふだんの睡眠不足を一気に挽回するぞ!
そう望んで床に就いても、いつもと大差ない時刻に寝覚めてしまうものだ。その後の<二度寝>が許される分、妙に得した気がしないでもないが、途切れなしの「寝溜め」は無理なのだろうか?
そもそも睡眠を遮断した(された)際、ヒトの脳内の各領域はいったいどんな反応を起こしているのか? そのあたりの脳内事情を探るため、ベルギーのリエージュ大学の研究グループが、健康で若年層のボランティア33人の参加を得て、連続42時間起きてもらう実験下で、いくつかの成果をまとめた。
その研究報告は、アメリカ科学振興協会が発行する学術雑誌『Science』(8月12日号)に掲載された。
体内時計は<健康の素>
まずは42時間の不眠実験中に、各自の注意力や反応時間を調べる試験が実施された。加えてMRI検査によって脳活動が記録されていったが、大方の事前予想どおり、被験者たちの断眠時間が長くなれば長くなるほど、総じて試験成績は低下していった。
一方、検査の末、光や暗闇に反応して睡眠/覚醒サイクルを決定する「概日リズム(サーカディアン・リズム)」と、起きている時間が増すほど眠気に襲われる「恒常的睡眠欲」との間には、それぞれが影響しあう関係にあることも明らかになった。
この2つの基礎的な生物学的プロセスを端的に言い換えるならば、前者の概日リズムが「体内時計」のようなもの(=この別称はよく使われる)、それに対して後者の恒常的睡眠欲は「体内砂時計」みたいなものとなる。
『Science』誌上の付随論文を担当した米ハーバード大学医学大学院の睡眠医学教授のCharles Czeisler氏は、この2種類の「時計」の複雑にして興味深い相互作用を、次のように説明する。
「たとえば、初日の午前7時から翌朝の午前7時までの24時間を起きていたとします。その後の開放感から自然と眠りには落ちるものの、体内の目覚まし時計が鳴ってしまい、数時間後に目が覚めてしまう。つまり、睡眠時間の長さを決定する主要因は『起きていた時間』の長さではなく、体内の『時刻』のほうなんです」
睡眠操作の主導権を握る概日リズム(circadian rhythm)は、「約」とか「おおよそ」を意味するラテン語のcircaと、「日」のdiesを語源とし、「概ね1日」「約24時間」の周期を指している。
内在的に形成され周期的に変動するこの生理現象は、動物や植物ばかりか、菌類や藻類に至るまで大概の生物内に存在している。その起源も進化上最も古い細胞まで遡れるとされる。
日中の有害な紫外線下でのDNA複製を回避する目的から獲得された機能、と考えられている。どおりで「眠気」に勝る主導的立場にいるわけだ。