結核症(モザイク入り)
結核菌を含む飛沫核で空気感染する「肺結核症」は、依然として世界の死因の上位にいる。肺結核の症状は、長く続くせきと微熱。たんに血が混じったり、喀血することもある。寝汗がひどく、だるさが続いて、やせてくるのが教科書的な特徴である。
飛沫核とは、せきやくしゃみなどで飛び散るしぶきの水分が蒸発した残りかすをさす。ふつう、細菌類は乾燥すると死滅するし、感染を生じるには多数の菌が体内に入り込む必要がある。
結核菌は乾燥に強く、少数の菌の吸入で発症するため、空気感染を生じるのだ。空気感染は換気の悪い閉鎖空間(教室、病室、航空機内、刑務所など)に長時間同席すると、離れたところにいても感染を生じてしまうやっかいな感染様式である。
結核菌以外には、はしか(麻疹)と水ぼうそう(水痘)が空気感染する。ちなみに、インフルエンザや風邪は飛沫感染で、1メートル以上離れていれば感染しない。飛沫(しぶき)は1メートル以上飛ぶことがないためだ。
近年、「多剤耐性結核菌」や超多剤耐性の出現、そして「エイズ(ヒト免疫不全症候群)」患者への感染増加が問題となっている。結核は決して過去の病気ではない。1900年の結核による死亡者数が世界で210万人だったのに対して、100年後の2000年の数値は実に300万人だ。3月24日は世界結核デーである。
結核菌は、空気とともに肺の奥深くに吸い込まれ、「肺尖部」(肺の一番上の部分)に感染しやすい。肺に感染した結核菌はリンパ節に流れ込んで結核性リンパ節炎を引き起こす。
この状態で、ゆっくりと進行するのが慢性感染症に分類される結核の特徴なのだが、免疫状態が不良だったり、赤ちゃんや高齢者では、結核菌が一気に全身に広がってしまうことがある。
結核性病変が長い期間を経過すると、「被包乾酪巣」とよばれる特徴的な病変を形作ることになる。それは、境界が明瞭な類円形病巣であり、内部が黄色みを帯びた《脆い乾いたチーズ状》の壊死物質で満たされる。「乾酪」とは乾いたチーズのこと。壊死(乾酪壊死)部が穴の開いたような状態になると、結核性空洞が生じる。
気管支につながる空洞には空気が十分にあり、加えて肺からの栄養もあるおかげで、結核菌には《絶好の棲み家》となる。空洞性病変をもつ結核患者が《感染源》になりやすいのも、そんな理由からだ。
時間がたつと病変全体が線維化して、しばしば石灰化するため、胸部レントゲンに映し出されることになる。胸膜(肋膜)に広がると、胸膜が癒着を生じる。
結核菌は、長さ1~4ミクロン、幅0.3~0.6ミクロンの棒状の細菌(桿菌)だ(1ミクロンは1ミリの1,000分の1)。体の中でしぶとく長生きするのが特徴で、古い病巣内でも死に絶えないため、これが結核の「再燃」の原因となる。若い頃にかかった結核が、年をとったり、免疫状態が悪化したりすると再発することが問題である。