トライアスリートも凌ぐ回復力!
Ratel氏らが各グループのエネルギー生産について評価したところ、8〜12歳の男児は一般の成人男性に比べて、酸素を使って糖分からエネルギーを得る好気性代謝から、より多くのエネルギーを得ていることがわかった。
そして8〜12歳の男児の代謝パターンは、成人のアスリートと同じだった。つまり8〜12歳の男児は、マラソンランナーのように好気性代謝が盛んなので、激しい運動をしても疲労しにくい。さらに、筋肉の回復や疲労の程度も成人アスリートと同程度だった。
そして、運動後の心拍数回復では、なんと8〜12歳の男児がアスリートを上回るという結果が出た。これについて研究者らは、「血中の乳酸値をすばやく回復させる能力が優れているためではないか」と推測している。
鍛え抜かれたアスリートを時に上回るという、驚くべき子どもの能力。しかし残念なことに、この若さゆえの利点は、年齢とともに失われることも明らかになった。
「成人期に近付くにつれ、少なくとも筋肉レベルでは、好気性代謝への適応能力は著しく低下することがわかっています。それと同時に、糖尿病などの病気が増えていきます」とRatel氏。
そして、今回の結果が、こうした疾患が発症するメカニズムを知るための手がかりとなるかもしれないと考え、「疾患のリスクを高めるかもしれない、成長による生理的変化を理解することは有用だ」とRatel氏は指摘している。
いつまでも遊べる能力は子どもの特権
一方、同論文の共同執筆者であるオーストラリア・エディスコーワン大学のAnthony Blazevich氏は、「この調査結果が、子どもの運動能力を最大限に引き出す方法を示唆している」と別の視点から指摘している。
「小児期は、筋肉の持久性が非常に優れていることが明らかになった。従って、スポーツの技術やスプリントスピード、筋力など、他のフィットネス分野を集中的に磨くことで、子どもたちのパフォーマンスがより向上するかもしれない」
子どもだけが持つ能力とその変化を探求することは、スポーツ科学のみならず生活習慣病の予防や老化のメカニズムの解明など、さまざまな分野に活かせる可能性がある。
そして、とりあえず世の親たちは、日々スーパーアスリート級の体力の持ち主を相手にしていることを知っておいたほうが良さそうだ。
子ども時代にしか持ち得ない能力を存分に発揮させるために、「電池が切れるまでとことん遊ぶような体験」をできるだけたくさんさせてあげたい。
(文=編集部)