ハエも射精すると快感?しかもメスに振られると酒に溺れやすくなる!

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ショウジョウバエとは、どのような生き物か?

 今回の研究は、実に興味深い。五月蝿(うるさ)い、叩き落としたくなる、あのハエにも「五分の魂」があるとは! 親しみすら覚える。

 ショウジョウバエと人間は、何がどう違うのか調べてみよう――。

 ショウジョウバエ(猩猩蠅)は、ハエ目(双翅目)ショウジョウバエ科に属し、科学界ではキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster:湿気や露を好むハエ)を指し、体長3mmと非常に小さい。熟した果物、樹液、天然の酵母を好み、酒や酢に誘引されるが、糞便や腐敗物質に接触しないので、病原菌の媒体にならない。「コバエ(小蝿)」「スバエ(酢蝿)」「fruit fly(果実蝿)」「 wine fly(ワイン蝿)」などの愛称もある。ちなみに日本名は、赤い目を持ち、酒を好むため、顔の赤い酒飲みの妖怪「猩々(ショウジョウ)」に由来する。

 ショウジョウバエを科学研究に活用するのはなぜか?

 第1に、飼料が簡単。イースト、コーンの粉、糖類を寒天で固めた飼料を使うだけ。水を加えて3分待てばできあがるインスタントの飼料もある。

 第2に、生長も世代交代も速い。産卵後約220時間(10日弱)で成虫になり、翌日に産卵するので、年間に30世代も重ねる。したがって、容器内に多数を飼い、短期間で世代をまたいで観察ができるので、実験に最適だ。

 第3に、染色体が少ない。ヒトの染色体は46本あり、複雑だが、染色体が8本(性染色体1対、常染色体3対)しかないので、遺伝学の研究材料として簡便だ。また、ヒトの病原遺伝子のおよそ61%は、ショウジョウバエと共通していることから、パーキンソン病やハンチントン病などの病理解明の有用性も高い。

 このようなアドバンテージがあるショウジョウバエ。様々な研究成果が確かめれられている。

ヒトの祖先はショウジョウバエ?

 たとえば「ショウジョウバエは、長い間の進化を経てヒトとなった」とする研究がある(季刊誌「生命誌」通巻22号)。

 この研究によれば、ショウジョウバエの頭・胸・腹(体節構造)を作る遺伝子に共通の短いDNA配列(ホメオボックス)が、ヒトを含めた脊椎動物にも発見されている。つまり、昆虫から脊椎動物に進化する生物間に共通の体づくりの仕組みがある。しかも、生物が時間を測る仕組みもショウジョウバエと脊椎動物は共通している。
 
 また、「人間とショウジョウバエの神経回路は、ほぼ同じ仕組み。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感は共通している」とする研究成果を坪内朝子・東京大特任助教授(神経生物学)の研究グループが発表している(毎日新聞:2017年11月3日)。

 さらに、ショウジョウバエを使った実験で「空腹になると脳内のタンパク質の一種が活発に働き、記憶力が向上する」仕組みを探求した研究もある(公益財団法人東京都医学総合研究所:2013年1月25日)。

 このような知見を知れば知るほど、ショウジョウバエは、生物の遺伝子から個体までを系統的に理解するために最適な「モデル生物」と分かるだろう。

 生命が生誕しておよそ38億年。ショウジョウバエが幾世代も重ねながら、人間に辿り着いた――。その共進化の長くも強かな「叙事詩」を知り、医療や健康に貢献していることに気づくだけで、ショウジョウバエへの親近感も芽生えるだろう。ショウジョウバエは、あなたの祖先なのだから。

 「やれ打つなハエが手をする足をする」

 叩き殺したくなったら、小林一茶の一句を思い浮かべるのも、一興かもしれない。
(文=編集部)

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