虫歯ではないのに歯が痛む「非歯原性歯痛」とは?(depositphotos.com)
「驚かれるかもしれませんが、私の治療経験上、歯の痛みを訴えて歯科医院に来る患者さんのうち、半数近くは虫歯が原因ではありません。歯周病や知覚過敏が原因のこともありますが、そうした歯や歯肉に関わる問題が原因ではない歯痛もあるのです」
こう語るのは「かしの木歯科医院」の山嵜智浩院長だ。
虫歯や歯周病などの原因がないのに起こる歯の痛みは「非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)」と呼ばれ、最近になってようやく注目されるようになった。
非歯原性歯痛は、2014年から国家試験の出題範囲に含まれるようになっため、現役の歯科医でも、それを知らない人がいるという。だから、歯科医に行っても「原因不明」とされたり、場合によっては歯や神経を抜くなど不要な治療が行われたりした挙げ句、痛みが治まらず長いこと苦しむ患者も、これまでは少なくなかった。
無意識の「噛みしめ癖」が痛みの原因か
歯が原因ではないとすれば、どこに問題があるのだろうか?
「非歯原性歯痛の中でいちばん多いのは、口の中の筋肉や筋膜の緊張から来るものと考えられています。緊張を引き起こす原因は、無意識に行っている『噛みしめ』と私は考えています。噛みしめというと、グッと歯を食いしばるイメージかもしれませんが、実は上下の歯が触れた時点で、噛みしめの問題が起こっているのです」(山嵜院長)
そもそも上下の歯は、正常な状態であれば、唇を閉じているときでも2~3mmの隙間がある。通常、上下の歯が接触するのは、物を噛むときや言葉を発するときだけで、1日に合計で十数分程度と言われている。
ところが、骨格のずれや強いストレスなどによって、上下の歯が持続的に接触している人がいる。この状態を歯科学では「TCH(歯牙接触癖)」と呼んでいる。
「歯と歯が触れていると、本人が思っている以上に多大なストレスが、歯や顎、側頭部や首、背中の筋肉にかかります。この状態が慢性的に続くことで、歯や顎に痛みや違和感をもたらします」(山嵜院長)
噛みしめが原因の歯の痛みは、朝の寝起きのときに多く、口が開きにくくなる症状が出ることもある。また、噛みしめ癖が、偏頭痛や肩凝りにつながることもあるという。
「噛みしめ癖があるかどうかは、患者さんの口の中を見るとわかります。頬の内側の粘膜に、歯に沿った横向きの白い線(圧痕)があります。強く噛みしめている人ほど、線がはっきしているので、自分の舌先で触ってもわかります」(山嵜院長)
噛みしめ癖そのものは、無意識にしていることでもあり、矯正するのは難しい。しかし、それによるトラブルを緩和できる方法がある。耳を指で引っ張って回す「耳回し」だ。