筆者が経験した塩素による事故と自殺企図
数年前に50歳代の女性が、工場で漂白剤である次亜塩素酸ナトリウムと塩酸を含む洗浄剤を混ぜて作業していた。10分後に、頭痛、嘔気、咽頭痛を訴えたため、ただちに同僚が救急車を要請し、30分後には病院に搬送された。頻脈と呼吸苦を訴えたため、酸素吸入による治療を行い入院治療したが、幸いなことに翌日には諸症状が消失し、無事に退院となった。
また、うつ病で精神科にて治療中の60歳代女性が、自宅で漂白剤であるキッチンハイター(成分は次亜塩素酸と水酸化ナトリウム)を150ml飲んで自殺企図した。嘔吐、咽頭痛、胸痛、動悸などを訴え、1時間後に病院に救急搬送された。
搬送の直後に嘔吐し、胃内視鏡検査により食道からの出血を確認したため止血。また、胃および十二指腸の糜爛(びらん)、腐食性変化を確認。潰瘍治療薬、抗生剤、補液、酸素吸入などの治療を行った。第5病日より、肝臓機能の軽度低下と肺炎を併発したものの、次第に軽快した。幸い腎臓機能は低下しなかった。入院後うつ状態が持続したため、第15病日に精神科に転入院となった。
家庭内や工場、プールなどで、次亜塩素酸を含む漂白剤やカビ取り剤、塩酸を含む洗浄剤を取り扱う際には、細心の注意を払うこと、そして、発症後はできるだけ早く医療施設への搬送を心掛けるべきである。
(文=横山隆)