本能で楽しむ医療ドラマ主義宣言! 第3回

『アンナチュラル』若い女医を小馬鹿にする医学会の重鎮はドラマ以上に現実の世界!

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法医学系ドラマの醍醐味、刺器損傷と凶器

 法医学において刺器損傷は重要臓器を傷つけやすい危険な損傷です。簡単に考えてしまうと、刺し傷から刺器の形が想像できる…なんて思ってしまいますが、意外と加害者の感情や刺器のさびつきなどでも影響を受ける繊細な傷です。

 加害者が被害者を凶器で刺した後に手首をぐりぐりっとすれば刺入口は広がってしまい、傷も凶器の形にはならない、凶器を逆手で持っても傷は変わるし、被害者の後ろから刺したか前から刺したかでも全く違う損傷になるわけです。そこを理解すれば法医学者にとっては、傷を一目見たら8割くらいのことは見えてきたりするのかなあ~。さらに、傷をきちんと見るためには乾燥させてはいけないらしく、ご遺体の保存方法も影響すると思うと、想像以上に気を遣うものになります。

 今回も「包丁を強く押し込んだ」という件がありましたね。<脊椎に先端が当たるほどに強く> そうなるとこの加害者の怒りのほどが見えてくる、という事ですね。こうした一連の行為に科学的な説明を付けていくところが法医学系ドラマの醍醐味ですね。

 そして医療現場ではどこにでもあるホルマリン。手術で切除した組織はホルマリン漬けにして病理学教室でがん細胞がないか、などの検査をしてもらいます。医学部時代の解剖学実習教室はホルマリンの臭いが充満していて、独特の雰囲気を醸し出していました。初めての実習では『うっ』と思いましたが、徐々に慣れてきて、ホルマリンの臭いをかぐと、神聖な気持ちになったのを覚えています。

 ホルマリンは組織の死後変化を停止することができる無色透明の液体で、生体には有害物質です。ホルマリン漬けになった組織は固くなり、大きさも小さく変化します。主にタンパク質に反応するので脂肪などの組織が流れ出してしまうようですが、濃度を調整することで微生物を死滅もさせないし、その物自体の保存や腐敗防止には優れた溶液です。今回の最終的なカギとなったホルマリン中の微量元素が測れた…という事になるのでしょう。利き手が鍵かと思わせておきながら、そっちかあ~!とまさにすっきりしてしまいました。

登場人物に次々と現れる怪しさに期待!?

 次回は私の一番好きなキャラクターであるミコトの母、三澄夏代(薬師丸ひろ子)の出番が多そうで楽しみです。そして毎回最後に誰かしらの怪しさを漂わせる『アンナチュラル』。井浦新 扮する中堂の行方も気になりますね。中堂は、ちょっと今回はかっこよかったですねえ~。我が息子が「恐竜レッド」と呼ぶ竜星涼扮する木林との関係もあからさまになっていくのでしょうか?

 最後にちょっと横道にそれますが、第2回を見てから気になっている事があります。

 一家心中のサバイバーのミコト。その過去があるから法医解剖医となり、練炭自殺の研究論文も書いていているという設定ですが、ふと私の頭をよぎるのは、「ミコトはもっと根深いトラウマを抱えているのではないだろうか……」という予感。

 人によって問題解決の方法や周囲のサポート環境、育ち方も違うから一概には語れないけれど、幼少期の体験は多かれ少なかれ後の人格形成に影響を及ぼすものです。ミコトはこのドラマの中で自分ととことん向き合う場面が今後出てくるのかなあ~、それともここに関してはもうスル~されるのかしら?と興味をもって毎回見ています。

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井上留美子(いのうえ・るみこ)
松浦整形外科院長
東京生まれの東京育ち。医科大学卒業・研修後、整形外科学教室入局。長男出産をきっかけに父のクリニックの院長となる。自他共に認める医療ドラマフリーク。日本整形外科学会整形外科認定医、リハビリ認定医、リウマチ認定医、スポーツ認定医。
自分の健康法は笑うこと。現在、予防医学としてのヨガに着目し、ヨガインストラクターに整形外科理論などを教えている。シニアヨガプログラムも作成し、自身のクリニックと都内整形外科クリニックでヨガ教室を開いてい。現在は二人の子育てをしながら時間を見つけては医療ドラマウォッチャーに変身し、joynet(ジョイネット)などでも多彩なコラムを執筆する。

シリーズ「本能で楽しむ医療ドラマ主義宣言!」 バックナンバー

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