自分の組織(自家組織)を移植する手術(皮弁法)の魅力は?
次に、もう一つの術式である自分の組織(自家組織)を移植する手術(皮弁法)を見よう。
自分の組織(自家組織)を身体の他の場所へ移植し、欠損した部位を補充する再建術が皮弁法だ。皮弁法には、腹部の組織を移植する「腹直筋皮弁法」と、背中の組織(広背筋皮弁)を移植する「広背筋皮弁法」がある。
主流は「腹直筋皮弁法」。そのメリットとデメリットを簡便にまとめよう――。腹直筋、脂肪組織を胸部に移植する「有茎腹直筋皮弁法」。顕微鏡を使って血管をつなぐような高度な技術が不要で安全性が高いのため、国内で最も普及している術式だ。
だが、移植した組織に血流が不足する、組織が硬化する、腹直筋の片側がすべて犠牲になるなどの欠点がある。「マイクロサージャリー」という特殊な顕微鏡下での高度な手術を行い、下腹壁動静脈を繋ぐ「遊離腹直筋皮弁法」。血流の信頼性が高いため、有茎腹直筋皮弁法よりも広い面積の組織を活かせるが、片側の腹直筋は犠牲になるのがデメリットだ。
腹直筋を犠牲にせずに腹部の皮膚、脂肪組織と下腹壁動静脈を移植するのが「深下腹壁穿通枝皮弁法」。筋肉の機能を残したまま組織を移植できるため、可能な限り腹直筋を温存できる、身体に対する侵襲を最小限にできる、自家組織ならではの自然な外観や感触がある、インプラントでは表現できない大きめの乳房や下垂した形態を表現できるなどの利点があり、最も理想的な方法だ。
だが、筋肉や神経を丁寧に分けて温存する作業が必要なため、難易度が高く、手術時間も入院期間も長いのが難点だろう。
これらの皮弁法によって下腹部に残る傷跡は、へそから約10cm下方のため、下着に隠せるのも利点かもしれない。また治療費は、自家組織による手術なので、保険診療が適応され、インプラントよりも経済的な負担が少ない点も大きなアドバンテージになる。
さて、長々と乳房再建術を見てきた。言うまでもなく、乳房は女性にとって貴重な臓器であり、再建術によって女性が享受できる恩恵は計り知れない。さらなる乳房再建術のイノベーションに期待したい。
(文=編集部)