人工乳房手術(シリコン・インプラント法)のリスク、メリットとデメリットは?
乳房再建術を詳しく見よう――。
乳房再建術には、2つの基本的な術式がある。「人工乳房手術(シリコン・インプラント法)」と「自分の組織を移植する手術(皮弁法)」だ。
これらの再建手術の前に、準備手術の組織拡張器(ティッシュ・エクスパンダー)による組織拡張手術を必ず行う。組織拡張手術は、組織拡張器(ティッシュ・エクスパンダー)を大胸筋という胸の筋肉の裏に挿入し、皮膚の伸展性と柔軟性を保つことによって、自然でバランスのとれた乳房の形態を再建する形成外科手術だ。
皮下乳腺全摘手術の場合は、少量の生理食塩水の入ったティッシュ・エクスパンダーを大胸筋の裏に挿入。健側(切除していない側)と対称的な位置になるように正確に挿入するのがポイントだになる(一期再建)。手術後、外来受診の時に、生理食塩水を徐々に注入し、健側の乳房と相応するまで皮膚を拡張する。さらに、伸びた皮膚が後戻りしないようにエクスパンダーを約3ヶ月、そのまま保持する。経過を観察し、十分な皮膚の伸展性と柔軟性が得られれば、人工物(シリコン・インプラント)、または自家組織のいずれかを選択して再建手術に進む。
人工乳房手術(シリコン・インプラントを用いた乳房再建)の利点は、身体の他の部分に損傷を与えずに手術が行える点だ。
手術手順はこうなる――。エクスパンダーによって皮膚の伸展性と柔軟性が得られた後、乳房の切除した傷口の皮膚を切開し、人工乳房(シリコン・インプラント)を挿入。挿入後、傷口が目立たないように形成外科的な特殊な縫合を行う。
全身麻酔は必要だが、低侵襲の手術のため、手術時間は約30分~1時間程度。術後の合併症のリスクが少なく、入院期間も最短(通常3泊4日)と負担が軽い。また、最近はインプラントの幅と高さ、突出度の組み合わせによって100種類から最適なサイズを選んで使用できるようになっている。
ただ、欠点がある。シリコン・インプラントは、人体には異物であるため、インプラントの挿入後、インプラントの周辺にカプセルのように皮膜が復縮する皮膜拘縮(ひまくこうしゅく)が起きるので、インプラントが変形しやすくなる。また、異物であるため、シリコン・インプラントの再建手術によって、患者の約3%に感染症が生じるリスクがある。
さらに、シリコン・インプラントは、下垂した乳房への適応が難しく、対側(治療していない側)が年齢とともに下垂しても、シリコン・インプラントで再建した乳房の形態は、変化しないため、手術直後の自然な乳房の対称性が徐々に失われるのも欠点だ。
なお、術後に放射線照射を受ける場合は、合併症の頻度が増すので、シリコン・インプラントは適応されず、後述する自家組織による再建になる。
ちなみに、シリコン・インプラントによる再建術は、健康保険の適応だ。