糖質は効率の悪いエネルギー源
エネルギー代謝とは、体内で物質が次々と化学変化して、エネルギーを発生させたり取り込んだりすることである。このエネルギーが「ATP(アデノシン三リン酸)」で、生命維持や運動などに使われる。このATPの材料が「糖質」「脂質」「たんぱく質」だ。
「1分子のグルコースからは38分子のATPしか作られません。ところが、ステアリン酸だと、1分子から146分子ものATPが作られるのです。いかに糖質が効率の悪いエネルギー源であるかがわかりますよね」と須階医師。グルコースは糖質に含まれ、ステアリン酸は脂質が分解して生じる脂肪酸の一種だ。
「おにぎりやうどんだけという糖質に偏った食事は、質的に栄養不足なのです。エネルギー効率のよい脂質とたんぱく質だけを摂取するほうが、体への負担を減らします。つまり糖質制限は体のストレス解消につながるというわけです」
糖質制限の問題点として、人間の脳の栄養源はグルコースだから、糖質制限で脳が働かなくなる可能性が挙げられる。しかし、「その心配はありません」と須階医師。糖質制限を行うと、体内の脂肪が分解されてエネルギーが作られる。脂肪が分解されるときに肝臓でできるケトン体が、脳の栄養源として使われるのだ。
「600万年とも、700万年ともいわれる人類の長い歴史で、穀物が生産されるようになったのはたったの1万年前。小麦や米などで糖質を取ることは、人間の体の機能に合わないので、全身にさまざまな異常を引き起こします。その中の1つがアトピーなのです」
徹底して糖質を避ける須階医師のレベルは厳しいと尻込みする人は、1食だけ糖質制限するプチ糖質制限から始めてもいいだろう。「肉も魚も野菜も食べ放題だから、実際にやってみると糖質制限は簡単ですよ」と須階医師は笑顔で話していた。
(取材・文=森真希)
須階富士雄(すがい・ふじお)
芝皮フ科クリニック院長。 1962年、東京都生まれ。89年、聖マリアンナ医科大学を卒業後、東京慈恵会医科大学皮膚科に入局。東京慈恵会医科大学附属柏病院・町田市民病院での勤務を経て、96年に芝皮フ科クリニックを開院。年間30,000人のアトピー患者さんを治療するスペシャリスト。
森真希(もり・まき)
医療・教育ジャーナリスト。大学卒業後、出版社に21年間勤務し、月刊誌編集者として医療・健康・教育の分野で多岐にわたって取材を行う。2015年に独立し、同テーマで執筆活動と情報発信を続けている。