連載「死の真実が〈生〉を処方する」第42回

少なくない妊婦の自動車事故~なぜか増える妊娠中期の事故の危険性

この記事のキーワード : 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

年間約1万人の妊婦が自動車事故に遭い20人弱が死亡

 我が国の人口動態統計によると、不慮の事故や自他殺といった、いわゆる外因死は死亡総数の5.2%です。しかし、年齢階級別にみると「15~24歳の死原因の69.2%」、「25~34歳の死亡原因の58.2%」と多くを占めます。

 妊婦の多くはこの年齢層に含まれるため、母児を守るためには外因死の予防が大きな課題です。米国では6~7%が妊娠中に何らかの外傷を負っており、また新生児の約1%は子宮内で交通事故を経験しているそうです。

 また、交通事故は妊婦が受ける外傷の約70%を占め、母児ともに外因死の最大の原因になっているとのことです。

 我が国では妊婦の交通事故についての包括的な調査がなく、交通事故で負傷した妊婦及び胎児の数は不明です。近年、札幌で行われた調査では「2.9%の妊婦が自動車乗車中に交通事故に遭遇」したそうです。

 また、妊婦を対象にした一般雑誌では、独自の調査をもとに、「妊娠中に自動車事故に遭遇した人は3%」と記載されていました。したがって、妊娠中に交通事故に遭遇する割合は、少なくとも3%以上と考えて良いようです。

 「産婦人科診療ガイドライン産科編2008」によると、「年間約1万人の妊婦が自動車乗車中に交通事故に遭遇し、20人弱の妊婦が死亡」すると推定されています。

 また、米国のデータをもとに2008年に行った私の推計では、「交通事故で負傷する妊婦は年間に5000~7000人、死亡する妊婦が20~40人程度」。近年、交通事故死傷者数は減少しているので、この数字はやや減っているでしょう。とはいえ、妊婦の安全のためには、交通事故予防も大きな課題です。

カナダでの統計調査では……

 カナダで2006~2011年に出産した18歳以上の女性約51万人を対象にした研究があります。この研究で、妊娠前3年間、妊娠中、産後1年間のそれぞれにおける自動車運転中の事故率が計算されました。

 妊娠前3年間を平均すると、この時の事故率は1000人当たり4.6でした。しかし、妊娠中期には6.5となり、妊娠前に比べて妊娠中期に事故を起こす危険性は42%も増加していました。その後、出産直前には事故率は2.7と低下し、産後の1年間も2.4と、妊娠前よりも明らかに低下していました。

 なぜ、妊娠中期に事故率が上がるのか、詳しくは分かっていません。しかし、妊娠することによる嘔気、全身のだるさ、眠気(睡眠不足なども含む)、注意力低下が原因とも考えられています。

 妊娠中期頃を迎えた方には、「自動車の運転に注意してください」と声を掛けることが事故の予防につながります。そして、お腹の中の赤ちゃんの安全にもつながるのです。

連載「死の真実が"生"を処方する」バックナンバー

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)

滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。厚生労働省死体解剖資格認定医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。

一杉正仁の記事一覧

一杉正仁
がんになってもあきらめない妊活・卵巣凍結 費用は卵巣摘出に約60万円、保管は年間10万円
インタビュー「がんでも妊娠をあきらめない・卵巣凍結」後編・京野廣一医師

がん患者への抗がん剤による化学療法は妊孕性(妊娠のしやすさ)を低下させる。がんにより妊娠が難しくなる患者を支援するため、2016年4月に「医療法人社団レディースクリニック京野」が、治療前に卵巣を凍結して保存しておく「HOPE(日本卵巣組織凍結保存センター)」を設立すると発表した――。医療法人社団レディースクリニック京野理事長の京野廣一医師に卵巣凍結の仕組みについて訊いた。
前編『「がん」になっても妊娠・出産をあきらめたくない女性のための「卵巣凍結」とは?』

大阪市内のクリニック勤務。1987年 産業医科大…

吉田尚弘

小笠原クリニック札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認…

横山隆

シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センタ…

中村祐輔