連載第1回 死の真実が“生”を処方する

見落とされがちな「運転中」の病気発症!事故の1割が運転者の体調変化が原因

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運転ミスによる事故死で片付けられる可能性も

 最近の研究では、これまで脇見や居眠りなどが原因とされてきた死亡事故のなかに、運転中の病気発症で突然死したケースが意外に多いことが明らかになっています。

 ある日に起きた交通事故。40代女性が、シートベルトを着用して車を運転していました。自宅近くを走行中に道路左側の塀に次々と接触した後、反対車線にある電柱に衝突して停止。路面にブレーキ痕はなく、発見されたとき女性はすでに心肺停止状態で、まもなく死亡が確認されました。

 事故直前からの姿勢を傷跡などから再現すると、女性がハンドルに覆いかぶさっていたことが分かりました。ぶつかる前に意識を失っていたのです。司法解剖で、女性の脳に「くも膜下出血」が見つかりました。

 高齢化やバリアフリー化が進むと、何らかの病気をもつ人が交通社会に参加するようになります。医学界でも運転中の病気発症は指摘されており、よく起こるものには失神、不整脈、てんかん、低血糖などが有名です。また、2時間以上運転すると足の血流が悪くなり、血液の固まりができやすい状態、いわゆるエコノミークラス症候群になります。こまめに水分を補給し、体調の異変を見逃さないことが重要です。

 国内外の報告を調べると、自動車事故の約1割が運転者の体調変化によって引き起こされています。ある研究では、年間の交通事故発生件数が約95万件とすれば、病気による誘発事故は5000件以上、現場で心肺停止状態となる運転者は2500人以上と推定されています。

●運転ミスによる事故死として片付けられている

 事故の場合、医師は外傷治療に専念するものの、事故原因が病気によるものかどうかを追及しないことがあります。日本法医学会の調査によると、交通事故関連の死亡に対して法医解剖が行われる頻度は5.8%。運転中の病死例の一部は正確に診断されず、運転ミスによる事故死として片付けられている可能性があるのです。
 
 交通統計によると、乗用車の単独死亡事故の原因は、操作上の誤りが40%、判断の誤りと前方不注意が各27%(2004年版)。発作・急病による死亡事故は年間わずか16件。これだけとは考えられません。わが国には、運転中の病気発症を正確に把握した統計がないのです。

 このことは、どのような社会的問題をはらんでいるのでしょう。たとえば、交通事故で入院や通院を余儀なくされたり死亡した場合には、事故に関する保険、病気であれば病気に関係した保険で補償されます。

 ほかにも、仕事中であれば、労働環境との関連が問題になります。仮に過重労働が背景にあり、病気を発症して死亡したとなれば、過労死に相当するかを議論。勤務状態などに問題があれば、事業主は就労環境の改善を命じられます。職業運転者が交通事故に遭った場合には、いわゆる労災となり、事業所としての予防対策が望まれます。

このように、不慮の事故なのか病気なのかでは、大きな違いがあるのです。病気の発症で事故死した人に対して、運転ミスの責任を押し付けることがないことを望みます。


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一杉正仁(ひとすぎまさひと)
滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授。厚生労働省死体解剖資格認定医、日本法医学会法医認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士過程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(理事)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)など。
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