【次頁にはグロテスクな画像が含まれます。閲覧にはご注意ください】虫垂先端部に「糞石」が……
今回示す肉眼像は、25歳男性の切除された虫垂(縦切開)だ。前日より心窩部痛(しんかぶつう:みぞおちのあたりの痛み)がまずあり、数時間後に痛みが右下腹部に移動するという典型的な臨床経過を示した。
その他の症状は、発熱(37.8℃)、食思不振(食欲不振)と悪心(吐き気)で嘔吐はなかった。末梢血の白血球は13,000だった。
来院時、右下腹部(McBurney点)に限局性の圧痛あった。同部の筋が固くなる「腹壁緊張(筋性防御)」と、圧迫後に手を離すと痛みが強くなる反跳痛(Blumberg’s sign)の徴候も認められた。
診断は「急性虫垂炎」で、虫垂切除術が行なわれた。肉眼像が物語るとおり、虫垂先端部に「糞石」が詰まっていた。
大きな糞石が内腔を閉塞し、そのために末梢部虫垂壁に全層性の「化膿性炎症」が生じている様子がわかる。これは、蜂巣炎性虫垂炎の典型例といえる。
化膿性炎症に伴って、虫垂内腔は拡張している。虫垂の表面を覆う腹膜面は発赤し、膿とフィブリンが析出する限局性化膿性腹膜炎を随伴している。
虫垂炎はありふれた疾患であるのに、正確な診断は意外に難しい。大腸の粘膜にできる窪んだ袋状の嚢が炎症を起こす「憩室炎」、「胃十二指腸潰瘍」「腸閉塞(イレウス)」「尿道結石」、女性の「子宮外妊娠」など、他の急性腹症をきたす疾患と鑑別する必要がある。
術前に腹部超音波検査やCTによって虫垂の腫大を確認することが行なわれる。
この男性患者のように急性虫垂炎は、病初期に「心窩部痛」を訴えるのが臨床的な特徴である。また、虫垂粘膜にリンパ装置の発達した10代から30歳の若者層に多い病態で、幼児や高齢層には少ない。
ただし、発見が遅れがちとなる幼児の場合、汎発性腹膜炎を合併して重症化しやすいので注意したい。
虫垂炎の内科的治療と腸がんの関係
参考までに、人間とチンパンジーには虫垂があるが、不思議にもサルには虫垂がない。イヌも虫垂をもつがネコにはない。
ちなみにウサギは虫垂がとてもよく発達している。消化しにくい植物繊維を微生物によって発酵・分解させて栄養分に変えるためと思われる。
人間も「虫垂には腸内の善玉菌が豊富で、緊急事態のときに腸内細菌を再構成する」といわれている。そのため、<虫垂炎になったらすぐ手術>は一昔前の考え方となった。
可能なら手術をせずに、抗生物質で内科的な治療(薬で散らして虫垂を温存)が勧められる。とくに、発症初期に相当する「カタル性虫垂炎」の頻度は減りつつある。
つい先日、スウェーデンから虫垂炎の内科的治療(手術なし)に警鐘をならす学術論文が発表された(『European Journal of Surgical Oncology』オンライン版2017年9月7日号、著者:Enblad Mら)。
虫垂炎に対する内科的な抗菌薬治療によって虫垂の炎症が長期間持続すると、腸がんのリスクが高まるという成績だ。1987〜2013年における虫垂炎の内科的治療群を検討すると、虫垂がん・大腸がん・小腸がんの発生率が増加していた。とくに、虫垂がんと右側大腸がんの増加が大きかった。
はてさて、みなさんは虫垂炎の内科的治療を受けますか?