授乳期で子どもの味覚が決まる!
各母親たちには、離乳後の子どもに対して「プレーン」あるいは「ニンジン風味」か「ブロッコリー風味」の離乳食用シリアルを与え、その反応をビデオ撮影で記録してもらった。
撮影の目的は、子どもの「嫌がるサイン(仕草)」から今回の「野菜風味の母乳」効果を観察し分析するためである。
子どもが見せる「顔をしかめる」「鼻にしわを寄せる」「唇を尖らせる」「スプーンを強く拒絶する」……などの反応を解析し、得られた結果はどうだったか?
水のみの⑤班に比べ、野菜風味の母乳を飲んだ子どもたち(①〜④班)は同じシリアルでも「プレーン」や「(飲み慣れない)ブロッコリー風味」よりも、総じてニンジン風味のものを好む傾向が認められた。
また、同じ1カ月の実験期間でも、より早く(生後2週間目から)野菜風味の母乳を飲んだ①班の子どもたちには、ある共通の特徴が読み取れた。それは他班の子に比べ、ニンジン風味のシリアルをより多く、より勢いよく食べるという明らかな効果だった。
この顕著な傾向に対する、研究陣の推測はこうである。「生後数週間は、授乳の頻度が高いためか、もしくは味覚の形成に影響を及ぼしやすい時期であるためであろう」
母親の食事の影響を受け、<味覚の経験>は子宮内から始まる
ちなみに今回の実験に協力した母親たち97人の野菜摂取量は、研究期間中も総じて変化ナシ。そもそも参加者の8割が「推奨量」を満たしていなかったようだが、それでも実験が進むにつれて、野菜ジュースの味を好むようになる傾向も共通していた。
そんな母親の嗜好や意識の変化が、その後も子どもに健康的な食べものを与え続ける可能性を高めたかもしれない。そう研究陣は推測している。
主筆のMennella氏は「乳児の感覚的経験は各自に固有のものではあるが、味覚の経験は子宮内にいるうちから始まっており、母親が食べたものによる影響を受けるものだ。とりわけ、母親から与えられる母乳は『精密医療の極致』と呼んでも過言ではない」と話す。
母親が野菜を摂る→その風味が羊水や母乳に移行して子に伝わる。そうやって早期から野菜の味を学んだ幼児は、離乳後の固形食を摂り始める時点でも「野菜嫌い」になる可能性は低い――。
とはいうものの、母乳育児ができない母親たちはどうすればいいのか? その境遇を与えられた時点でもう、野菜好きの健康な子どもという将来像を半ば諦めろとでもいうのだろうか?
「母乳育児」をできなくても自分を責めないで
そんなことはないのでご安心を! そんな助言を寄せているのは、米国栄養・食事療法学会(AND)の広報担当であるJennifer McDaniel氏である。
「別段、今回の論文に限らず、母乳育児によって子どもの食べものの好き嫌いを少なくできる可能性については、複数の先行研究で示唆されている」と同氏はいう。
そして「母乳育児をできないお母さん方は、何も自分を責める必要などありません。ですから悲観せずに、健康的で多様性に富んだ食事を与えてあげれば、子どもは違う味覚や食感を経験しては受け入れていくものですから」と話す。
母親の意識次第で、自然と選り好みしない健康的な食事習慣を身につける子どもの可能性(その感覚)を信じなさ――そういう助言だろう。さて、ママさん自身は野菜の推奨量を満たしてますか?
(文=編集部)