分子でできたハサミのように用いて標的の配列を切り取る
さて、今回の遺伝子の破壊に使われたゲノム編集技術(CRISPR-Cas9)は、変異遺伝子のDNA配列に狙いを定め、Cas9というDNA切断酵素を分子でできたハサミのように用いて標的の配列を切り取る遺伝子操作技術だ。
つまり、DNAを探すリボ核酸(ガイドRNA)と、DNAを切るDNA切断酵素のハサミ、「Cas9」がワンセットになり、DNAをピンポイントで削除し、新しいDNAを組み込むと、DNAの塩基配列が書き変えられる。
言い換えれば、リボ核酸(ガイドRNA)は、目的のDNAを見つけると、Cas9に知らせる。知らせを受けたCas9は、目的のDNAをピンポイントで削除(ノックアウト)し、新しいDNAを組み込む(ノックイン)するので、DNAが新たに書き変えられるのだ。
CRISPR-Cas9は、成功率が高く、安定しており、しかも、改変した痕跡が残りにくく、一度に複数のDNAを操作できるため、スピーディかつローコストが大きなメリットだろう。
現在、CRISPR-Cas9は、特に農水畜産物の品種改良に広く活用されている。たとえば、腐りにくいトマト、病原菌に耐性のあるイネ、肉付きのいいブタ、おとなしく飼いやすい養殖マグロ、通常の個体より大きなタイなどの研究が着々と進んでいる。
医療分野では、筋ジストロフィー、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、白血病、メンデル性遺伝病、ダウン症などへの遺伝子治療の臨床研究が始まっている。
さらに京都大学は、難病患者の体細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作り、CRISPR-Cas9によって原因遺伝子を修復し、再生医療への活路も開かれつつある。
さらに、がん、アルツハイマー病、糖尿病などの生活習慣病などへの応用も有望視されている。
生物、環境、医療の未来を一新する可能性を秘めたバイオテクノロジーのフロンティア、CRISPR-Cas9。その限りないポテンシャリティに胸が高鳴る。
(文=編集部)