グルー治療は広範囲の麻酔と術後の弾性ストッキングが不要
グルー治療は、1990年代から胃食道静脈瘤や脳動脈奇形などの治療に用いられてきた。その後、欧米では下肢静脈瘤の治療にも使用されるようになり、すでに血管外科の名医たちにより、多数の論文で人体への安全性と治療の有効性が確認されている。
下肢静脈瘤のグルー治療(ベノクローズ)を、国内でいち早く導入している北青山Dクリニック(東京都港区)の阿保義久院長に話を聞いた。
「グルー治療のもっとも大きなメリットは、広範囲の麻酔が不要で、複数の部位に針を刺すことでの内出血や、術後の麻酔による違和感を抑えられること。そして痛みや出血もほぼないことだ」と語る。
他の治療法との差異はどこにあるのだろうか?
阿保院長は「硬化療法は、硬化剤の接着力が弱いので、治療できる部位が比較的細い血管に限られる。そして再発率も高い。レーザー治療は比較的広範囲の麻酔が必要で、レーザーで血管内を焼灼(しょうしゃく)する際に、確率は低いとはいえ血栓が生じるリスクがある。そのため治療後は、3週間ほどエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)やむくみの予防のため、弾性ストッキングを着用する必要がある。
一方のグルー治療は、接着力が非常に強いため、太い静脈でも数十秒で血管内を閉塞することが可能。トータルの治療時間は10〜20分程度だ。再発率もきわめて低く、麻酔は狭い範囲で済み、治療後の弾性ストッキングの着用も必要ない」と語る。
ではどうして、日本国内でこのすぐれたグルー治療の普及が進まないのかというと、どうやら医療用材料メーカーの思惑があるよう。グルー治療が現段階で普及してしまうと、問題があるのかもしれない。おそらく国内で下肢静脈瘤に対するグルー治療が一般的になるのには、2〜3年後になる見通しだ。
ちなみに治療価格は、接着剤の薬剤費が高いため片足で30万円ほどかかる。まだごく一部の医療機関でしか受けられないが、下肢静脈瘤に悩む人には一考に値する治療法だといえるだろう。
(取材/文=渡邉由希・医療ライター)
阿保義久(あぼ・よしひさ)
北青山Dクリニック院長、血管外科・腫瘍外科医。
1993年、東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院第一外科、虎ノ門病院麻酔科、三楽病院外科、東京大学医学部腫瘍外科・血管外科を経て、2000年に北青山Dクリニックを設立。2004年、医療法人社団DAP設立。2010年、東京大学医学部腫瘍外科・血管外科非常勤講師。
国内で初めて下肢静脈瘤の日帰り根治手術を発案したパイオニアとして、総治療実績は3万例を超える。現在は、「日帰り手術」「予防医療」「アンチエイジング」を三本柱に、下肢静脈瘤を中心とした日帰り手術を行うほか、病気の発生を未然に防ぐための人間ドックや抗加齢医療などを積極的に提供。2009年からは、がんの遺伝子治療にも精力的に取り組んでいる。