これからの季節、「重だる脚」を訴える女性がピークに達する shutterstock.com
女性向けの「着圧ソックス」が人気だ。ふくらはぎに圧力をかけて血行を促進し、むくみの改善に効果があるとされている。その市場規模は100億円を突破したとのことで、なかでも「スリムウォーク」(ピップ)と「メディキュット」(レキットベンキーザー・ジャパン)が二大ブランドとの声が高い。
そのピップ株式会社(大阪市)が昨年末、20〜40代の働く女性約1万人を対象にインターネット調査を行ったところ、約8割が「脚のだるさ=疲労感」を覚えていることが明らかになった。さらに、だるさを感じる時間帯は夕方が71.1%で1位、夜が68.4%で2位(複数回答・有効回答数408)と午後以降が多数を占めた。また、同社が過去2年間のツイッターのデータを調べたところ、だるさを訴えるツイートは3月から徐々に増加、5〜6月にピークに達し、8月まで高止まりする傾向も判明した。
看護師で足裏療法家の市野さおり氏は、「時間帯が夕方以降に集中するのは、やはり日中に働いた疲れと脚のむくみが重なり、『だるい』と感じる女性が多いのでしょう。また春から夏にかけてだるくなる人が多いのは、気圧が下がり、逆に湿度は上がるためだと考えられます」と解説する。
脚のむくみは、さまざまな病気の原因になる
そもそも脚のむくみとは、血液やリンパ腺の流れが滞り、老廃物と一緒に溜まっている状態を指す。
脚は人体の中でも大きな筋肉がついており、伸びたり縮んだりすることで血液やリンパ液が全身を循環することを助ける。体の「ポンプ役」は心臓だけではないのだ。
ところが、春から夏にかけて気圧が低下すると、脚にかかる圧力も下がる。脚の筋肉は弛緩して、ポンプ機能の低下を招いてしまう。また、湿度が上昇することで熱くても汗が出にくくなり、細胞内に水分が溜まりやすくなる。結果、むくみに加え、下肢に停滞した水分が「重さ」を感じさせ、女性誌などでおなじみの「重だる脚」という疲労・不快感を生むのだ。
事務職のように座りっぱなしだったり、一部の接客業のように立ちっぱなしだったりすると、むくみが悪化し、脚がどんどん太くなってしまう。それどころか、全身の血行やリンパ液の流れを悪化させてしまえば、血管がこぶのように膨らむ静脈瘤が発生してしまうこともあり、かゆみや湿疹を引き起こす場合もある。また、全身に様々な悪影響を及ぼし、不眠や精神的ストレスをも招いていく 。つまり「むくみ」が引き起こす「重だる脚」は全身の諸症状悪化のきっかけとなっているのかもしれないのだ。
男性が訴える原因不明の不眠や倦怠感の原因は......
一般的に脚のむくみは、筋肉量の少ない女性に起こりやすいが、筋肉量が少なければ性別は関係ない。男性でも、運動不足で脚の筋肉が衰えて脂肪が増すと、女性の脚に近づいていく。それだけでなく、内臓脂肪も曲者だ。体の中でリンパ液の流れを滞らせてしまうため、脚がむくむリスクが増える。実際、前出の市野氏の主催する「せき鍼灸院」には、脚のむくみを訴える男性患者は少なくない。多くはメタボぎみで、不眠に悩まされ、慢性的な体のだるさも感じている。
市野氏によると、男性は脚のむくみを自覚しにくいという。女性はストッキングやパンプス、ヒールのついた靴などで脚を締め付けることが多い。それらを脱ぐと、脚の締めつけが緩み、むくみなどの変化を自覚しやすいのだ。だが男性の場合は、脚がむくんでいても気づきにくい。原因不明の不眠や倦怠感の原因になっていることもあるのだ。
一番の解消法は歩く=脚の関節を動かすこと
いずれにせよ、男女ともに「たかが、むくみ」と軽視すれば、心不全、動脈硬化、狭心症、心筋梗塞、下肢静脈瘤、などの疾病リスクを高めてしまう場合もある。いずれも血液やリンパ液の流れが悪化したことが原因の病気ばかりだ。
「脚のむくみは、やはり筋肉量の多い男性のほうが、女性より解消しやすいのは間違いないと思います。とはいえ、男女ともに通勤時に1駅だけ余計に歩いたり、会社でなるべく階段を使ったりすれば、脚のポンプ作用が働き、むくみの解消につながります。特に脚の関節を動かすことを意識すると効果的でしょう」(前出の市野氏)
人気の着圧ソックスを活用する手もある。ポイントは腿までの長さがあるタイプを選ぶこと。ちなみに近年は男性用も販売されている。
交通機関の発達などもあり、我々は十分に歩くことができていないのかもしれない。人間は直立二足歩行を行う唯一の生物とされる。そのために脳を巨大化することが可能となり、全ての動物の中で最も高い知能を得られたという。二足歩行という大先祖の"功績"をおろそかにしないためにも、不眠や倦怠感を覚えたら脚のむくみをチェックし、生活習慣を見直すのは重要だ。「重だる脚」は現代社会が生んだ病の一つとはいえ、簡単な心がけで解消することもできる。
(文=大迫知信)