不治の病ではなくなったHIV感染症だが、薬は一生飲み続けなくてはならない(depositphotos.com)
1981年に発見され、当時は高確率で死亡する不治の病と恐れられたヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症。しかし治療法の進歩により、今や慢性疾患のひとつになった。
この春、欧州の国際研究チームが発表した論文よれば、1990年代後半から普及した抗ウイルス薬を複数組み合わせて飲む「抗レトロウイルス療法」により、HIV感染者の平均余命が大きく伸びたという。
20歳のHIV感染者の平均余命は78歳以上
研究チームは、1996〜2010年の間に3種以上の薬を使って治療を始めた8万8504人の感染者を分析。投薬開始から3年間の死亡率を元に、平均余命を求めた。
すると、最も死亡率が低くなっていた2008〜2010年の間に治療を開始した20歳の患者の死亡予測年齢は、男性で67.6歳、女性で67.9歳だった。
これだけだとまだ、非感染者よりも10〜20年ほど短く、余命が改善されているようには見えない。しかし、「感染初期」で「ウイルス増殖の値が低い時」に治療を始めた「20歳の患者」に限れば、平均余命は78歳以上となり、欧米の一般的な寿命とほぼ同じだったという。
現代の医学ではまだHIVを治癒することはできず、生涯薬を飲み続けなければいけない。しかし治療で免疫機能を高めれば通常と変わらない状態を維持できる。そして早期発見治療ができれば、健常者と同等の寿命を全うすることも可能なのだ。
4.9%がギフトカードでウイルス抑制に成功
半面、何らかの理由で医師の言うとおりに服薬を続けない感染者も多く、医療関係者が頭を痛めている。患者にとって、複数の治療薬を長期にわたって飲み続けることの大変さがネックとなっているのだ。
その状況を打開しようと、先月(2017年6月)、米コロンビア大学が興味深い実験結果を発信している。HIV感染者が治療を始めたり、継続してもらったりするために、ギフトカードを提供するなどの金銭的な報酬が有効だというのである。
今回の研究はニューヨーク州ブロンクスと、ワシントンD.C.のHIV検査施設37カ所、HIV治療施設39カ所で実施された。
「HIV検査施設」は、陽性者に対して追加の血液検査を受ければ「25ドル」、受診して治療計画を立てれば「100ドル」のギフトカードを提供するグループと、「通常通りの対応」を取るグループにランダムに割り付けた。
「治療施設」のほうは、抗レトロウイルス療法を受けているHIV感染者にウイルス量の抑制を達成できていれば、「3カ月に1回70ドル」のギフトカードを提供するグループと、「通常通りのケア」を行うグループにランダムに割り付けた。
その結果、検査でHIV陽性が判明した「新規感染者」が治療を開始する割合は「ギフトカード提供施設」と「通常対応の施設」との間に差はなかったが、治療中の感染者がウイルス量抑制を達成した割合は「ギフトカード提供施設」のほうが通常ケア施設よりも3.8%高かった。
さらに、研究開始前にはウイルス量を抑制できていなかった感染者を対象とした解析では、「ギフトカード提供施設」のほうがウイルス量抑制を達成できた割合が4.9%高いことが示された。