それでもやっぱりコンドームを(shutterstock.com)
1990年代前半まで「死の病」とされていたHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症。しかし今では多くの抗HIV薬が開発され、きちんと治療をすればAIDS(後天性免疫不全症候群)を発症することなく、長年にわたって日常生活を送ることができるようになった。
とは言っても、今のところHIVウイルスを体内から完全に排除する方法はない。感染者は一生をかけて、HIVと付き合っていくしかないのだ。従って、パートナーがHIVキャリアである場合は、常に感染の危険性を頭に入れておく必要がある。
ところが先日、「異性愛者のカップルの場合、パートナーがHIV陽性だとしても、抗HIV薬を服用していれば、コンドームを使わずに性交しても、ウイルス感染する可能性は極めて低い」という驚きのレポートが『Journal of the American Medical Association』誌に掲載された。
パートナーからHIVに感染はいない?
この研究を行ったのは、デンマーク・コペンハーゲン大学教授のJens Lundgren氏らのグループである。常時コンドームを使わないカップルのHIV感染リスクを調べるため、2人のうち一方だけがHIV陽性である、欧州14カ国の888カップルを対象に、おおよそ1年強(2010〜2014年)にわたる追跡調査を実施。対象カップルは、約3分の2が異性愛者で、残りは男性の同性愛者だった。
その結果、男性の同性愛者をパートナーに持つ10人と、異性愛者をパートナーに持つ1人の合計11人が、新たにHIVに感染したことが判明した。ただし、体内のウイルスを分析した結果、いずれもパートナー以外の人との性行為によって感染したと考えられるという。
ちなみにHIV陰性の男性の同性愛者のうち33%が、また異性愛者のうち4%が、他のパートナーとコンドームなしで性交したと申告していた。
また実際は、パートナーから感染するリスクもわずかにあると思われるが、分析の結果、そのリスクは、異性愛者のカップルでは0.3%未満、同性愛者のカップルでは0.7%未満であることも判明している。
結論として、異性愛者のカップルの場合は、HIV陽性者が十分な抗ウイルス療法を数カ月続け、薬を服用している限り、「コンドームなしの膣性交によってHIVに感染するリスクは極めて低く、無視できる可能性が高い」と、Lundgren氏は述べている。
一方、同性愛者カップルの場合は、同じ条件でもリスクがわずかに高まるものと見られ、「無視できるレベルとまではいえない」という。
今回の研究は「追跡期間が短く弱点はあるが、感染の可能性について長年悩んできた患者とそのパートナーにとっては実に大きなニュースだ」と、HIVに詳しい米ワシントン大学(シアトル)のJared Baeten氏は述べている。
それに対して、エイズ研究財団「amfAR」のRowena Johnston氏は、「対象者のようなカップルの場合、コンドームを使わなくてもさほど危険はないと思われるが、全く使用する必要がないとは言いにくい」と慎重な姿勢。
米エイズ医療財団(AHF)のMichael Weinstein氏も「コンドームは安価で効果の高いHIV感染の予防手段であることに変わりはない」と話す。